孤独な放火魔

著者 :
  • 文藝春秋 (2013年1月21日発売)
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感想 : 22
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新米裁判官久保珠実が左陪席をつとめる裁判員裁判を描いた作品。
若年性アルツハイマー症である妻の介護疲れの鬱憤と、昔いじめられた腹いせから、少年時代の友人の家に放火した裁判。
DVから身を守ろうと、アイロンで夫をなぐり殺してしまった主婦の裁判。
夫と愛人の間にできた子供を一時預かり育てるうちに愛情がわき、愛人に子供を戻したが「子供が虐待されている」と、子供を守るために愛人を殺害した主婦の裁判。
ミステリーなのだから、一筋縄では終わらない裁判なのだけれど…。

ミステリーやサスペンスドラマとは違い、実際に裁判で提示されるのは形のある証拠だけで、被害者や犯人の心境などは想像するしかない。事件の動機は、検察側と弁護側の陳述や証人尋問から推し量るしかないのだ。裁判員裁判の評議では、そんな不確かなものから事実を“断定”してしまうわけで、「本当にこれが真実なのだろうか?」という疑問が私にはどうしてもぬぐえない。

帯に「裁判はいつも、無数の人生を浮き彫りにする」とあるけれど、本当にそうなのだろうか?
簡単に見えた裁判が、意外な方向へ進んでいくことを描いているのだろうけれど、私には「人を裁く」ことの難しさを強く感じた作品だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2019年1月21日
読了日 : 2013年10月9日
本棚登録日 : 2019年1月13日

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