「出張料理人」というお仕事は、究極の実力主義のビジネスなんだとビックリしました。
読む前は、料理の出来よりも、どちらかというと女性シェフ本人のおしゃれさや美しさ、素材の値段の高さや珍しさが取り柄の、ファッションモデルの亜流のような世界かと勝手に誤解していました。
もしかしたら日本国内の非常に限られたコミュニティの中ではそれでも通用するかもしれませんが、この著者のいる舞台では実力がすべて。ゲストや依頼主に「驚き」と「喜び」を与えて初めて次の仕事が来る、という世界です。
一度でも失敗したら二度と呼ばれないであろうことは読んでいてひしひしと感じられ、実際の仕事の場面では読んでいる私まで緊張しました。
著者がそんな厳しい世界で生き抜いてこられた理由は明らかです。料理のすべてを本当に愛している。とにもかくにもそれがすべての根源にある、という感じでした。
その著者からあふれ出している「愛」が、食材選びや一緒に働く人たちやゲストたちに波及していく様子がすべてのページから感じられて、読んでいる私まで幸せな気分になりました。
仕事と人間の一番理想的な形だよなぁ、としみじみ。
世界各国の大富豪たちの生態(?)もこの本の読みどころの一つです。
「ミロのスープ」の名前にまつわるエピソードなんかは、日本人の国民性とは違うリアクションでおもしろいなぁと思う。
いろんなキッチンや邸宅内の描写もすごく興味深いです。
究極は、カナダの大富豪。息子は飛行機でハーバードまで週末ごとに往復していて、食材はぜんぶ自宅周辺で作られていたり(肉もそのエサも自家製!)。
そんな人たちにも臆することなく、レシピを考えながらわくわくしている著者に、「肝が据わった人だなぁ」と感心します。私ならビビリまくってしまうだろうな。
とにかくおもしろかったです。
著者が出しているフランス料理のレシピ本には、素材の扱い方や料理の手順が非常に丁寧に解説されているそうなので、買って読み込んでみたいと思いました。
きちんとしたフランス料理を自宅で作ろうなんて今まで思ったことなかったですが、この本を読んで、作ってみたくなりました。
- 感想投稿日 : 2017年6月12日
- 読了日 : 2017年6月11日
- 本棚登録日 : 2017年6月12日
みんなの感想をみる