傲慢と善良 (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2022年9月7日発売)
4.10
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本棚登録 : 35044
感想 : 3116
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この小説の前半を読んで「これは婚活バイブルだ」と思いました。

主人公の男性の39歳でイケメンの架が50人だとか、100人だとかと会って婚活したというのは、それはさぞかし疲れるでしょうと思いました。
「在庫処分セール」とか酷い言葉もあるものだと思いました。

架の相手となる真実の姉、希実が「お見合いがうまくいってないって聞いて思ったよ。真実も母もどうしてそんなに傲慢なんだろうって」と言いますが、前半の真実はとても善良な女性らしく描かれていました。

だけど、後半、変わるのですね。
真実の素顔が。
善良から傲慢に。
架の女友達の美奈子に「真実ちゃんうまくやったよね」と言われる場面は、真実も結局は傲慢だったんだと思いました。
その場面が美奈子たちの捏造ではなく事実だとわかった時はぞっとしました。
私も、真実は弱者として同情されても、真実の本音は好きになれない。嫌いだとすら思いました。

ただ、この小説を読むと誰もが自分を振り返りたくなると思うのですが、私も弱者でしたが、傲慢さはあったと思います。
(この場で赤裸々に語ることはしたくないですが)
でも、その傲慢さというのは、決して尊大なのではなく、人間として最小限必要な尊厳のようなものではなかったかと私は思うのです。
それがなければ、自分が自分でなくなってしまうくらいに。

最後の朝井リョウさんの解説で、この小説がヘビーなのは「何か・誰かを”選ぶ”とき、私たちの身に起きていることを極限まで、解像度を高めて描写することを、主題としているからだ」
とありますが、全くその通りだと思います。
人を選ぶなんて、本当に嫌なことでもあり、自分にとっては最も大切かもしれないことですから。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2022年10月21日
読了日 : 2022年10月21日
本棚登録日 : 2022年9月26日

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コメント 3件

naonaonao16gさんのコメント
2022/10/22

まことさん

こんにちは!

傲慢さって、人に指摘されて初めて気がつく性格ですよね。自分ではなかなかそれに気づきにくいなって。
この作品を読む前に自分に傲慢さがある事を知っているのと知らないのとでは、読了後の落ち込み度合いが全然違うなと思いました。
ちなみにわたしは前者です。

朝井リョウさんの解説、すごくよかったですよね。彼の言葉は、現代を生きる人々の気持ちを、現代の目線で等身大で表現してくれてて好きです。刺さりすぎるのですが。

まことさんのコメント
2022/10/22

naoちゃん。こんばんは♪

この作品は怖かったです。
私も自分がただの弱者(このことばは、この小説には出てきませんが)だと思っていたら、傲慢さを持っていたのだと、知りました。
でも、レビューにも書いたけど、人間として、最小限必要な尊厳として行動したことが、傲慢だということに、なってしまうことも、あるのじゃないかと、思います。
例えば、「もう、あなたとは、付き合えない」と言った何らかの理由が。とか。

朝井リョウさんの、解説は、わかりやすかったです。
「何か・誰かを選ぶとき、私たちの身に起きていることを極限まで、解像度を高めて描写することを、主題としているからだ」は、よくわかったし、朝井さんの解説もいいけど、辻村さんの、小説の主題がこれは、すばらしく巧みなんだなあ、と思いました。

naonaonao16gさんのコメント
2022/10/22

「傲慢」てなんなんでしょうね…
自己肯定感と、うっすら重なっている部分すら感じるんですが、それはまた違いますしね。

別の方に書いてくださった、合コンの話ですが…
あれは…傲慢なのか…!?とも思ったり…
尊厳と傲慢の線引きは難しいなと思いました。

わたしは誰かを好きになると、今はだいぶなくなりましたが「分かって欲しい!」ってなっちゃうんですよね…

辻村さんの主題あってこその朝井さんの的を得た解説、というとこですね!
最近の辻村さんの心の描写がいい意味でエグくて、読むたびにゾクゾクしております!!

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