空がきみをかくしている。
それとも黄金色の麦の波の中なのか。
風がないのに穂がゆれている。
空の青と日の照り返しがあんまりまぶしいので、
棺を運ぶ友たちの顔が笑っているようにみえる。
空の高いところで鳥が鳴いた。
ヒバリだー
実った麦。刈りとられる麦の穂の匂い、きみの匂い。
でも、きみはどこにいる。
(中略)
小麦の穂がどんどんのびて、
まあたらしい雲が麦畑から生まれるー夏。
ふたりでヒバリの歌をきく。
雲の影をおいかける。
そんなとき、きみが麦の波間にみえなくなるのが、ぼくはひどくこわかった。
でもきみは手をふりながらいつも笑っていた。
世界に何も怖れるものなんかないようだった。
あのときのように、きみは今、
麦の穂にかくれているだけなんだろうか。
以下、とても美しい詩情あふれる文章と深い青色を基調とした絵に圧倒されました。
この絵本はいせひでこさんが描いた、ゴッホと弟のテオの物語です。
どうしても描きたかった兄と弟の物語だそうです。
兄の死後テオがオランダの母に宛てた手紙の中のことば「Ce frere etait tout pour moi!ーにいさんは、ぼくのすべて、ぼくだけのにいさんだったのです!」がこの絵本を制作するあいだ心をはなれることがなかったそうです。
テオがゴッホに対するような兄を自分自身のすべてだといいきれる兄弟関係は素晴らしく、二人の今生の別れは涙を誘います。
表紙は黄色いひまわりと少年の絵ですが、中身は深い深い濃紺でとても澄みきった美しい色使いです。
- 感想投稿日 : 2022年10月28日
- 読了日 : 2022年10月28日
- 本棚登録日 : 2022年10月12日
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