ファーストラヴ

著者 :
  • 文藝春秋 (2018年5月31日発売)
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感想 : 517
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島本理生さんの作品は8割は拝読しています。
遅ればせながら直木賞受賞おめでとうございます。

この物語は就活中の女子大生の聖山環菜が父親の那雄人を刺殺したという事件を、環菜の半生を臨床心理士の真壁由紀が本にまとめるために取材をしていく話です。
主な登場人物は他に由紀の夫で写真家の我聞。我聞の弟(実は養子)で由紀の大学の同級生で弁護士の迦葉。迦葉は環菜の事件で環菜の弁護を担当しています。由紀の母。あとは環菜の母親。環菜の友人の香子などがいます。

由紀に「殺人の動機は自分でもわからないから、見つけてほしい」と言った環菜。
てっきりこのストーリーは殺人の動機探しのミステリーだと思い読みすすめました。
しかしこのストーリーは、最後まで読むと、ミステリーではなく、むしろラブストーリーだったように感じられました。『ファーストラブ』というのはもちろん環菜の事件の動機に関係するキーワードだと思って読んでいました。実際ストーリーの後半で、環菜の12歳の時に大学生だった元交際相手も登場します。

ですが、私はこのストーリーは殺人事件の真相を探る型をかりた、由紀と迦葉、そして我聞のラブストーリーにも思えました。
大学時代の由紀と迦葉の関係は最近読んだ、どの小説の男女の関係よりもせつないものでした。後に迦葉は「あれは恋愛ではなかった」と兄の我聞に語っていますが、二人の関係の方こそが「ファーストラブ」ではなかったのかと思いました。お互いに孤独を抱えていた二人は、一緒に逃げまわり、人に聞かれると「兄妹です」と答えていました。由紀と迦葉の関係はとてつもなくせつなく、反対に兄の我聞と由紀の関係は太陽の明るい陽射しのようにあたたかく感じられました。

余談ですが、『初恋』というタイトルのアルバムを発表されたばかりの歌手の宇多田ヒカルさんが、某TV番組のインタビューで「私にとっての初恋は男性ではなく、肉親でした」と語られていたのを思い出しました。
環菜は、血縁のない父親にも、実の母親にも全く愛されませんでしたが、環菜にとっては父と母が初めて接した人間であったことは間違いのない事実であったのでしょう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 恋愛 ミステリー 島本理生 直木賞
感想投稿日 : 2018年9月3日
読了日 : 2018年9月3日
本棚登録日 : 2018年9月3日

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