希望が死んだ夜に (文春文庫 あ 78-1)

著者 :
  • 文藝春秋 (2019年10月9日発売)
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神奈川県警刑事部捜査一課の真壁巧は生活安全課の仲田蛍と二カ月前に14歳になった冬野ネガという母子家庭の少女を同級生を殺した容疑で取り調べることになります。

殺されたのはネガの同級生の春日井のぞみ。セーラー服を着て化粧をした姿で首を絞められて殺害後自殺に見せかけようとした計画犯罪とみられ、ネガは犯行は認めたものの、動機については語らず、半落ちです。
なぜ、ネガはのぞみを殺したのか…。

ネガは母子家庭で母親が働けないので、大学生のふりをして居酒屋でバイトをしていました。
真壁たちが調べていくと、ネガと同じ店で春日井のぞみも一緒にバイトをしていたことがわかります。
のぞみの家も父子家庭で父親が鬱病を発症。生活保護を申請しようとしていました。
のぞみは、フルートをやっていて音大へ行って、フルーティストになるという夢がありました。

そして真壁らはネガとのぞみが親友同士であり、ネガがのぞみを殺す動機が全くないことに気づきます。
本当にネガはのぞみを殺したのか…。
真相は、まさかこんな結末があるとは思いもよらない絶望的で残酷なものでした。
ミステリーとしてとてもよくできていると思いました。

この作品のテーマは貧困と生活保護だと思います。
国連の人権規約を批准した国で高校の授業料がタダになっていないのは日本とマダスカルだけであり、大学の学費は世界の平均と比べてずば抜けて高いそうです。
勉強するのにこんなにお金がかかる国は日本くらいだそうです。
又、日本のシングルマザーは八割以上が仕事をしているのに、半分以上が水準以下の生活を送っているそうです。
この作品ののぞみは、生活保護を受けると大事にしていたフルートが財産としてみなされ手放さなければならなくなることに絶望していました。
最後にのぞみのとった行動は何とかならなかったのかと思いました。

『希望が死んだ夜に』ー
ネガ(希)の希望も、のぞみ(希望)の希望も貧困と生活保護の在り方のために死にました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年7月31日
読了日 : 2021年7月31日
本棚登録日 : 2021年7月28日

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