新訳 茶の本 ビギナーズ 日本の思想 (角川ソフィア文庫 315 ビギナーズ日本の思想)

  • KADOKAWA (2005年1月25日発売)
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 お茶を始めたので読んでみた。「茶の本」と「東洋の理想」(序章と終章)が解説とともに収められている。

 岡倉天心は東京藝大や日本美術院の礎を作った美術評論家である。英語に巧みで、アメリカの美術館で東洋部の顧問をするとともに、日本や東洋の文化をプロモーションしていた。「茶の本」は茶道(原文では Tea ceremony ではなく Teaism らしい)を東洋独自の美と調和の精神の結晶として紹介し、西洋の文化とは別の価値を持つものとしている。

 「茶の本」を茶道思想のスタンダードになる教科書的読物だと思っていたが、どちらかといえば天心独自の見解を開陳したものだった。茶には老荘思想、道教、禅の考え方が背景にあり、それこそが東洋を貫く哲学であるとする。
 文化に造詣が深く、審美眼も確かな人が書いたものなので、独自の見解がスタンダードになっても特段支障はないのだろうと思うし、西洋圏の人が読む入門書としていいと思う。ただ、日本で生まれ育った者としては、チェリーピック的なところも目についてしまった。

 「茶の本」は東洋の平和的な理念が強調されるのに対し、「東洋の理想」は日本の対外膨張を肯定するような色を若干帯びている。天心は「アジアは一体(Asia is one )」 とは言っているが、東洋の盟主は日本であるべきとは言っていないし、国粋主義的なところも見られない。 それでもやはり後の大東亜共栄圏構想に利用されてしまった。
 実は「東洋の理想」(1903年出版、1942年邦訳出版)のあとに「茶の本」(1906年出版、1929年邦訳出版)が書かれていて、そこには「現代世界において、人類の天空は、富と権力を求める巨大な闘争によって粉々にされていしまっている。(略)東と西は、荒れ狂う大海に投げ込まれた二匹の龍のように、人間性の宝を取り戻そうとむなしくもがいている」とあるので、人間同士が争うことに対してはむなしく感じており、否定的だったのは間違いないと思う。

 本書の半分は解説だったが、解説つきの本を最初に読めてよかった。時代背景や美術史的な動向の解説もなしに、英語の原文など読んでいたら、全く分からなかったろうと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 古典
感想投稿日 : 2023年2月23日
読了日 : 2023年2月23日
本棚登録日 : 2023年2月23日

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