誰のために - 新編・石光真清の手記(四)ロシア革命 (中公文庫 い 16-8 新編・石光真清の手記 4 ロシア革命)

著者 :
制作 : 石光真人 
  • 中央公論新社 (2018年2月23日発売)
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ロシア革命後に陸軍嘱託としてブラゴヴェシチェンスクおよびアムール川を挟んだ対岸の黒河に特務機関を設置して情報収集に当たった時期について書いたもの(本文に特務機関という語はない)。
ボルシェビキの地域代表者や、反革命を謳う元の市長やコザック部隊、ドイツ=オーストリア(独墺)軍の捕虜から転じて赤軍に協力する部隊、独墺からの独立運動を行うチェコスロバキア兵、といった勢力が割拠するシベリアが描かれる。
 
長年にわたってブラゴヴェシチェンスクに在住していた日本人たちの自警団は陸軍から武器の援助を受けていたため、反革命勢力から自警の範囲を越えた協力を求められ、赤軍に包囲された戦闘で犠牲者を出す。
石光は軍属として影響力を及ぼすが、その結果を悔やむ(とはいえ、明確な指揮権はないようだ)。

結局、チェコスロバキア兵救援という名目でシベリア出兵が行われるが、反革命勢力の救援という現地の期待とは違い、ブラゴヴェシチェンスクにやってきた日本軍部隊は暴行略奪を行い失望を買う。
石光は現地の不満と陸軍との板挟みになり、ウラジオストック派遣軍の司令官に窮状を訴えるも「日本軍に忠告に来たのか」と難詰され、職を辞す。

ボルシェビキの代表者も、元市長(反ロマノフではある)も、一介の人物であり彼らとの交流は意見の相違を超えた交際であった。
しかし、ボルシェビキの代表は日本軍に捕らえられて逃走を図って射殺され、元市長も赤軍の優位が明確になり亡命し、石光も失意のまま去る。

その後の石光は錦州で行っていた事業も破綻し、三宿にあった三等郵便局長の地位も「特定三等局になったので解任」され、自費で整備した施設は二束三文の賃料で召し上げられた。
一人で子供を育て、経済的にも窮乏していた妻は身体を壊していた。

本人も家族もなんら報われることのない満州生活が終わったところで全4巻完結。
公開を予定していなかったメモだけに、生々しさに満ちている。シベリア出兵の現場感覚での無謀さとだらしなさはもちろん、石光が帰国途上にハルビンで出会った亡命ロシア人の3人娘たちの様子なども、私的メモだからこそのリアルだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 自伝・伝記
感想投稿日 : 2022年1月4日
読了日 : 2022年1月4日
本棚登録日 : 2022年1月4日

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