チェーン・ピープル

著者 :
  • 幻冬舎 (2017年4月20日発売)
3.27
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本棚登録 : 223
感想 : 34
5

1人のライターが6人の人物を訪ね、そこにまつわる人生と経歴と気付かない視点を掘り起こしていく、短編連作集。

ありえない世界を、極めて冷静にリアルに描き切る中で、事実の奥に潜む本質のようなものに肉薄していく手法が凄まじい。


「正義の味方」
ある日突然出現した未確認巨大生物、いわゆる「敵」。
その存在に悩まされる中出現した、いわゆる「正義の味方」が、「敵」の侵略を阻む。

「正義の味方」は、救世主と持ち上げられるが、やがてその存在を巡って、社会は勝手に混乱しだす。


「似叙伝」(じじょでん)
人生がもう一度あれば。
こんな人生を送ってみたかった。
ならば、あなたの歩みたかった人生の記録を書いてあげるよ。
全く空想の、自叙伝ならぬ「似叙伝」出版を手がける男。
傲慢で鼻持ちならないのだが......。


「チェーン・ピープル」
統一されたマニュアルで、平均的なサービスを提供するチェーン店。
それが、人間そのもので存在した。
「平田昌三」という人格を生きていく「チェーン・ピープル」。
その存在は決して明かされることはない。
彼らは年1回の総会で出会う以外は、家族にすら「チェーン・ピープル」であることをあかしはしない。

「ナナツコク」
地図にすら存在しない「ナナツコク」。
母から娘へ。そしてそのまた娘へ、引き継がれていく国。
架空であるはずの住人が目の前に現れることによって、彼女の人生が大きく変わってしまう。

「ぬまっチ」
とある地方都市の非公認ゆるキャラ、「ぬまっチ」。
可愛いキャラでもなんでもない、どこにでもいそうな中年男性がそのまま舞台に登場し、声だけは愛らしく叫ぶ。
「こんにちは~っチ。ぬまっチで~すっチ!」
だが、態度はおざなりで、やる気のなさを隠そうともしない。
そんな「ぬまっチ」は人気沸騰。
市は公認ゆるキャラを作って対抗するのだが…...。

「応援」
ライターは、「応援」の中心人物に問いかける。
「自らの信じている『事実』というものが、もしかすると自分の思い込みに過ぎないかもしれない、という可能性を考えたことはありませんか」

だが、彼女は耳を傾けることはない。

良かれと思って投げかけている言葉。
自分たちが正義と思い込んで起こす行動。
相手を慮ることのない「応援」。

誰もが加害者にも被害者にもなる。
ただ、加害者は自分が加害者であることに気付かない。気付こうとしない。


三崎亜記の世界が、また深化した。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年10月11日
読了日 : 2017年10月8日
本棚登録日 : 2017年10月11日

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