道 [DVD]

監督 : フェデリコ・フェリーニ 
出演 : ジュリエッタ・マシーナ  アンソニー・クイン  リチャード・ベースハート  アルド・シルヴァーナ 
  • アイ・ヴィ・シー
3.90
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本棚登録 : 650
感想 : 128
4

『洋子さんの本棚』で、小川洋子さん、平松洋子さんがこの作品に対する思いを語っているのを読んだのがきっかけです。それまでは、タイトルや音楽は耳にしたことがあったし、あらすじもなんとなく知ってるんだけど、作品自体は観てなかった。名作によくあることです。

後半からラストにかけて、なんだかどうしようもなくもの哀しい、やるせないような気持ちになった。けれども、決して重苦しいいやな後味ではなく、それはきっと純粋さを象徴するようなジェルソミーナの存在のおかげだと思う。

乱暴で身勝手な男ザンパノに、1万リラというはした金で買われた女ジェルソミーナ。貧しい家族が少しでも楽になればと、ザンパノについてゆく。そして大道芸をしながら旅を続けるけれど…。
くされ縁、というのか、共依存、というのか、どうにも幸せではない関係。
ザンパノはどこまでもザンパノのままで、「愛」に自覚的になれない馬鹿な男。欲望のままに利己的な行動を重ね、ジェルソミーナを傷つける。
ジェルソミーナもどこまでもジェルソミーナのままで、自尊心というものを知らない哀しい女。ザンパノに身をまかせたきり、自分を守ることができない。
二人の間には「会話」というものが決定的に欠けている。

そこへ第三の人物、綱渡り芸人が登場する。彼とジェルソミーナの会話のシーンが、私のいちばん好きなシーン。というかこの綱渡り芸人の男がすごく好き。どこか浮世離れした不思議な存在で、天からの「救い」のような感じがする。(演し物の時の彼のコスチュームには天使の羽根が付いている)
どうしてザンパノから逃げないのか? そう尋ねられてジェルソミーナは考える。この綱渡り芸人との会話の中で、ジェルソミーナは愛について少しづつ自覚的になってゆく。
「ザンパノ、少しはあたしを愛してくれているの?」
虚しいかな、そう語りかけるジェルソミーナの言葉はザンパノには響かない。それどころか、ザンパノの愚行はエスカレートするばかり。それでもザンパノから離れられないジェルソミーナ。
「私がいなかったらあんたはひとりぼっちなのよ。」
それがジェルソミーナがようやく見つけた自分の存在理由だから。ジェルソミーナが自分の存在を肯定するためには、どうしてもザンパノの存在が必要なのだった。

ジェルソミーナの愛は、アガペの愛。
一方、ザンパノはソドムとゴモラの住人。何の信念もなく、欲望剥き出しで、ある意味とっても人間臭いのかもしれない。
結局二人は道を別つことになるのだけれど、数年後にジェルソミーナの足跡をザンパノが見つけるラストのシーンで、「音楽」が鍵になっているところがものすごくいい。ジェルソミーナがいつもトランペットで吹いていたあの曲(ニノ・ロタがまたいい仕事をしている!)を耳にして、ザンパノの中に眠っていた「ジェルソミーナ」が目を覚ます。彼の中で何かがざわざわと波を立て始める。ザンパノとジェルソミーナは、やはり「言語」以前の部分で結び付いていたんだな、と思った。
そして最後のクライマックス。
ジェルソミーナが自分にとってどんな存在だったのか、ザンパノがようやく気づくシーン。(しかし時すでに遅し!この馬鹿男め!)俺はひとりでも平気だ!とうそぶいていたのに、海を見ていたらもうどうしようもなくなって、ついに子供のように砂の上に崩れてしまう…。
この海のシーンでは、自然と涙がぽろぽろとこぼれていました。

ジェルソミーナはザンパノに出会わない方がよかったのかな? やっぱりそんなことを考えてしまう。
ジェルソミーナは、彼に出会うまで生まれた街から一度も出たことがなく、弟や妹、家族の世話だけをして暮らしていた。だからザンパノがいなかったら、広い世界を見ることも、いろいろな人と出会うこともなかったかもしれない。そして「愛」というものを知ることも…。
そう考えると、幸も不幸も、やはりザンパノが彼女にもたらしたものは大きいし、それによって彼女の人生は色鮮やかなものになった。

もう一つ気になること。ジェルソミーナには自分の意思でザンパノのもとを離れるチャンスが二度あった。サーカスの仲間たちに誘われた時と、綱渡り芸人に誘われた時。どちらかと一緒に行っていたなら、一人前の旅芸人として自立することができたかもしれない。自分の存在理由を確認するための共依存的男女関係からは、すくなくとも解放されていたかもしれない。
なんて、いろいろ考えさせられる素敵な作品でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 映画
感想投稿日 : 2016年5月31日
読了日 : 2016年5月31日
本棚登録日 : 2016年5月31日

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