アンダークラス化する若者たち――生活保障をどう立て直すか

制作 : 宮本みち子  佐藤洋作  宮本太郎 
  • 明石書店 (2021年3月26日発売)
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アンダークラスとは、不安定な雇用、際立つ低賃金、結婚・家族形成の困難という特徴を持つ一群であり、従来の労働者階級とも異質なひとつの下層階級を構成する社会階層である。
(引用)アンダークラス化する若者たち ー生活保障をどう立て直すか、編著者:宮本みち子・佐藤洋作・宮本太郎、発行所:株式会社明石書店、2021年、15

我が国は、少子高齢化が叫ばれて久しい。内閣府の「少子化対策白書」による「令和2年度 少子化の状況及び少子化への対処施策の概況」によれば、2019年の出生数は、86万5,234人となり、過去最小(「86万ショック」)となった。また、同年の合計特殊出生率は、1.36と、前年より0.06ポイント低下している。さらに、2021年6月4日、厚生労働省が発表した2020年の人口動態統計調査によると、合計特殊出生率は1.34と、前年より0.02ポイント低下したことが明らかとなった。少子化対策白書では、少子化対策による重点課題として、まず真っ先に待機児童解消などの「子育て支援施策の一層の充実」を掲げる。次に、若者の雇用安定など「結婚・出産の希望が実現できる環境の整備」としている。

少子化の根本的な原因はどこにあるのか。男性の育児参加や待機児童をなくすことも勿論、大切なことであろう。また、昨今の新型コロナウイルス感染拡大の影響により、結婚が疎遠がちになりつつあることも拍車をかけているのだろう。しかし、最大の要因は、多くの若者たちが将来に希望を持てず、家庭や子どもを持つことを諦めてしまっているのではないかと思う。それは、私が2009年に「子ども・若者育成推進法」が成立した背景に興味を持っているからだ。
「なぜ、国は、子ども・若者の支援に力を入れるのか。」
「いま、子どもや若者たちに何が起きているのか。」
その真意を確かめるべく、私は、「アンダークラス化する若者たち(明石書店、2021年)」を読み始めた。

まず、「アンダークラス」という言葉が存在することに驚いた。アンダークラスとは、生活水準が下級階層であることを指す。子供の貧困が増大している背景には、家族の崩壊、親の長期の失業、一人親(特に母子家庭)の増加などがある。その結果、不登校や高校中退といった早期の学習機会が奪われ、就労に至らないケースが増加する。我が国では、雇用によって成り立っていた若者の生活が保障できなくなっている。それとあわせて、国家による古い生活保障制度が若者たちを排除することが浮かび上がってくる。
本書では、アンダークラス化が進む若者たちに、様々な観点から厳しい現実を突きつける。
では、現代を生きる若者たちに”救いの手”はあるのだろうか。悲観論が続くが、その中においても私が本書で見出した”希望”を3点述べたい。

1点目は、「つなぐ」ということだ。
「コミュニティー・オーガナイジング」という言葉がある。若者支援は、行政、民間事業所、地域、家庭などが関わってくる。その際、縦割り行政では、制度のはざまで生きる子どもたちに、支援の手が及ばない。まず、地域社会の資源を結集した「コミュニティ・オーガナイジング」というアプローチにより、各支援者を「つなぐ」ことが必要だと感じた。そのために、私はまず、子どもの抱えている”異常”は、学校で把握するなどの対策も必要ではと感じじている。そして、学校で把握した要支援の子どもたちは、福祉へと引き継がれる体制づくりが急務である。

また、若者を切れ目なく支援機関につなげる回路も必要だということを理解した。学校からの情報がサポステなどの若者支援機関に届くことは少ないため、来所者の捕捉率は低いという。その中で、高知県の「若者はばたけネット」に希望を見出した。高知県では、中学卒業時及び高校中退時の進路未定者をサポステにつなげ、就学や就労に向けた支援を行うことでひきこもりやニートにならないように予防している。各機関が連携をし、情報を「つなぐ」ことで、若者支援に対して強力なものになる。

2点目は、「生活保障を立て直す」ことだ。
我が国の社会保障制度は、一定期間の拠出履歴を前提とした失業保険に基づく社会保険が中心であることが前提となる。社会保険であることから、非正規雇用などの雇用歴が不安定になりがちな若者にとって、失業給付からの脱落に直結してしまう。そのほか、最後のセーフティネットと言われる生活保護においても、審査基準が厳しいと言われている。これらの古い社会保障制度からの脱却が問われる。本書の最後で、宮本太郎氏は、「若者にベーシックアセット」を提唱している。アセットとは、ひとかたまりの有益な資源であり、資源として重要になるのは、支援サービス、現金給付、そして帰属先のコミュニティであるとしている(本書、292)。本書では、ベーシックアセットについて詳述されていないが、宮本太郎氏は、「貧困・介護・育児の政治 ベーシックアセットの福祉国家へ(朝日選書、2021年)」を上梓されている。今後、読んで理解を深めたいと思った。

3点目は、まだ私たちの周りに「奉仕する心」、「福祉の心」を持ったかたがいることだ。
まず、各自治体では、再優先課題として、子ども・若者支援対策に取り組むべきではなかろうか。少子化の時代、一人ひとりの貴重な子ども・若者たちが希望を持てるまちづくりを進める必要があると感じた。
その上で、本書では、「静岡方式」が取り上げられている。静岡の取り組みは、国家、企業、家族でない第四の拠り所として「地域」を位置づけ、これを足がかりにして、若者のライフチャンスを高めようという取り組みである(本書、130)。静岡の事例を見ると、支援される側には、多様なサポーター(ボランティア)が登場する。NPO法人青少年就労支援ネットワーク静岡の取り組みは、地域全般の雇用のありようを変え、地域の「包摂力」をあげることに成功している。この地域の「包摂力」をあげることは、今後のまちづくりにおける根幹となるべき要素ではないだろうか。そのまちには、多様なサポーターたちの「奉仕する心」や「福祉の心」によって支えられていることが必須条件となる。そして、幸いにも、私達の周りには、特に国が危機的な状況(例えば大規模震災時など)に襲われたときに感じるのだが、そのような方が多く存在する。

アンダークラスの若者たちは、何も好んで、そうなった訳ではない。多くは、大人の理由によることも多い。
「人間」は「人間」でしか助けられない。
そのため、いま、私たちは、それぞれ”今いる場所”で、アンダークラス化する若者たちに寄り添い、結びつき、支援をしていく責務があるのだと感じた。それがひいては、少子化を克服する一つの処方箋にもなるし、自分たちのまちを持続可能なものにしていくことだろうと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会・行政
感想投稿日 : 2021年6月5日
読了日 : 2021年6月5日
本棚登録日 : 2021年6月5日

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