漂砂のうたう

著者 :
  • 集英社 (2010年9月24日発売)
3.53
  • (50)
  • (153)
  • (140)
  • (30)
  • (10)
本棚登録 : 934
感想 : 173

すごかった。直木賞受賞作品の中の超直木賞だと思う(笑)小説を読むという楽しみを最大限に味わわせてくれる小説。まだ未読で読書が趣味という人には是が非でも読んで欲しい。そして読後の愉悦を語って欲しい。
どうやら、このブクログやメーターさん、Amazonなどのレビューで歓喜の差が激しいのは奥まで読み込めたかそうじゃないか、らしいから。

私もどこまで読めたか自信はないけれど、元武士の家の次男であった主人公や惹きのある登場人物たちを根津の遊郭という舞台に乗せ、明治維新後の激動な時代を背景に進んでいくストーリーだけではない魅力を存分に感じた。
その時代の根津の遊郭の空気を想像させる文章と登場人物たちの仕草の表現、遊郭言葉、それと構成の技。
話がどんどん進んで行くのに私は主人公の定九郎の葛藤の理由を浅く感じたままで「そのままくさったままで堕ちて行くのかよ」とイライラしていたのに、ラスト近くの龍三の言葉で定九郎がしゃくり上げて泣くくだりで、私も定九郎のように嗚咽とまではいかなくても、思いがけなく涙し、理解した。
多分それが作者の技のひとつなのだ。
主人公の思弁はそこそこに、ページを重ねる毎に動向の意味を読者にさりげなく想像させながら主人公と一緒にラストまで導いていく。木内昇さんってほんと凄い。

ついメモった文章はいくつかあるけれど、p274の「いったい自分はなにに邪魔されてこんな場所まで流されたのかと思い、『時代』という陳腐な答えが浮かび上がる。しかしそれほど密に時代と結びついているという実感は、欠片もないのだ」という文章に激しく共感。
私も漂砂のひと粒だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 木内昇
感想投稿日 : 2013年3月13日
読了日 : 2013年3月12日
本棚登録日 : 2013年3月13日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする