死の棘 (1977年)

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感想 : 7
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2006/01/08読了。以下は当時のブログから。

正月が明けた頃からずっと、島尾敏雄の『死の棘』を読んでいて、昨日やっと読了した。

夫の不貞のために精神に異常をきたした妻が、夜となく昼となく夫を責め続け、浮気の相手のことや行動の内容を細大漏らさず明らかにしろと同じ尋問を飽くことなくいつまでも繰り返す。
拷問とも思えるほどの執拗な追及を逃れようと、夫は自分も心の均衡を崩した振りをして妻の発作に対抗し、それを見た4歳の娘は友達を連れてきて、ホラネアタシノオトウサンキチガイデショと指をさして笑う。

こんなふうなことが文庫にして約600ページに亘って続く、地獄絵図のような小説だ。しかもほぼ実話というから恐ろしさもひとしおである。一家は住まいを移したり、治療のために病院を頼ったりもするが妻の症状は治まることなく、出口のない不安の中で生活は荒んで行く。ラストではふたりの子供を妻の郷里に預け、夫婦は揃って精神科に入院することになるのだが、問題は何ひとつ解決していない。妻は次から次へと疑惑を持ち出し、夫は答えに窮したまま、ぽん、と放り出されるように話は終わるのだ。
それは毎日詳細につけていた日記が突然中断されたような、着地点のない乾いた読後感だった。『棘』は抜かれないまま、書き手と妻、そして読み手の心に残されている。

とはいえ妻がすっかり快復し、問題がすべて解決してめでたし、などという陳腐で嘘くさい結びこそ有り得ない。ほぼ実話と知っていればこそ、どうしようもない閉塞感と絶望があとを引くラストには納得でき、不思議と救いのようなものをさえ感じた。
この後は当然『「死の棘」日記』を読むべきなのだろうが、小説の内容のみならずそれを表現する文体も読んでいて窒息しそうな苦しさだったので、より詳細に書かれているであろう日記を読む気には当分なれそうもない。
それで次は女流作家でも読むかと、図書館で久坂葉子の本を借りてみた。18歳で芥川賞候補となり、21歳で鉄道自殺を遂げた『元祖文学少女』
だという。随分とキャッチーな人もいたものだと思いつつプロフィールを読んでみたら、島尾敏雄に会ったのをきっかけに作品発表を始めたと書かれていて、作品を読む前からガックリ疲れて肩を落としたい気分になった。
引っかかった『棘』はもうしばらく抜けそうにない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学
感想投稿日 : 2012年4月22日
読了日 : -
本棚登録日 : 2012年4月22日

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