名前をつけてやる

アーティスト : スピッツ 
  • Universal Music
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感想 : 58
4

スピッツ2枚目のアルバム。「初期スピッツ」として名高い。

デビューアルバムから7ヶ月くらいでこのレベルのアルバムが作れるのは、やはりセンスが違う。惜しむらくは音圧が低い点。これも「味」と取ってしまえば取れるが、やはり聴いてると音が小さいのでもう少し大きいミックスにしてほしかった感じ。あと、マサムネの歌いかたがアンニュイな感じでふにゃふにゃしてるのもやや個人的にはマイナス。シューゲイザーを意識しているため狙ってるのだろうが、デビューアルバムくらいのトーンで歌ってほしかった。
ただし楽曲は珠玉のナンバーが続く。本当にスピッツのエッセンス、バンドとしての本能に突き動かされているような音にうっすら恐怖を感じるほどの出来。どんな感性を持ってたらこんな名曲たちが作れるのか。ポップだけど妖しい、ノスタルジックだけど新しい、儚いけど強い曲たちが並んでいる。いい意味で「売れない」ような作品。この時期にスピッツファンだった人はよっぽど音楽にアンテナを張っていたんだろうなあ。
以下、曲ごとのレビュー。

1、ウサギのバイク
名曲はイントロから名曲。アコギのアルペジオ、1番は全部スキャット、「ウサギのバイクで逃げ出そう」という逃避行全開の歌詞。メロディアスなギターソロ。3分くらいであっという間に終わる尺。もはや芸術。

2、日曜日
アッパーなパンクナンバー。戦争の歌とも、性的な歌とも取れる。これも短い曲ながらインパクトは抜群。ベースとドラムが主役みたいに暴れてて楽しい。

3、名前をつけてやる
タイトルナンバー。「むき出しのでっぱり」「ふくらんだシャツのボタン」等、フェティッシュな表現がそこかしこに。それを乗せるメロディーラインもポップ然としてるのにサビはマイナーコードが多用され、「あか抜けない」キャラが音でも表現されてる。これもスピッツの根っこを表してるような歌。テツヤのギターソロ、いいなあ。

4、鈴虫の夜
テツヤ作曲。軽快なリズムパターンに歌謡曲の哀愁が漂う。「鈴虫」っていう小さな存在と自分を重ね合わせてるような、ダサいけど憎めない主人公が浮かぶ。昔の、アパート暮らしの学生っぽい歌。

5、ミーコとギター
パンクナンバー。ベース、ドラムプレイはかなり難しそう。1ヶ所間違えたらすぐ追いてかれそうな疾走感がある曲。「ミーコの彼はミーコの彼じゃない」「パパとミーコのようなギター」等、ヤバそうな世界観。まさしく美大出身、みたいなイメージが湧く。

6、プール
ファーストアルバムの「夏の魔物」的な立ち位置の名曲。イントロからアウトロまで、全部が素晴らしい。最初のギターバッキングを聴いただけで「懐かしい夏」を勝手にイメージしてしまうくらい絵画的なサウンド。歌詞については「夏蜘蛛になった」「白い花降りやまず」「でこぼこ野原」等、性を感じさせる表現はここでもたくさん。しかしそんなにおいを吹き飛ばすほどに曲が纏っている、狂気すら感じるノスタルジー。芸術です。

7、胸に咲いた黄色い花
アコギが印象的なポップナンバー。スピッツの曲はよくサビが弱い、と言われるが、これもそんな感じ(サビも十分メロディアスだけど)。サビよりCメロの方が奥行きを感じさせるメロディになっている。優しい小作品。

8、待ち合わせ
パンクナンバー。「君は来ない 百万年前に約束した場所へ」等、よっぽど「君」を好きだったことが伝わる。失恋をやけくそに歌ってるようなイメージの歌。最初は「飾りのない恋 ドロドロの」だったはずが最後は「帰らぬ日々 澄んだ水の中に」と、粘性を失ってしまう。まさか入水しちゃったのでは…と死のにおいも感じさせる。

9、あわ
ジャジーなアレンジの歌。インディーズの「シャボンのうた」が元ネタ。インディーズのころはテンポも早いポップパンクだったので、アレンジが大分変わったみたい。
「でっかいお尻が大好きだ」とか「機関銃を持ち出して 飛行船を追いかけた」とか「すぐにショーユの染みも落ちたよ」とか、意味不明な歌詞全開。解釈なんかせずに不思議な歌の世界をそのまま楽しめば良さそうかな?アウトロのお洒落な楽器隊はかなり好き。雨の日に聴きたいナンバー。

10、恋のうた
スピッツがパンクから今のようなポップロックに転換するきっかけとなった歌。カントリーっぽく、歌謡曲っぽい、これぞスピッツ! って感じの可愛い歌。初期にしては珍しくストレートな表現で恋心を歌っている。「昨日よりも 明日よりも 今の君が恋しいから」は誰が言われてもグッとくる…はず!

11、魔女旅に出る
将棋の藤井くんが好きだという歌。別れの辛さを「苺の味に似てるよ」と表せる人はマサムネ以外にいるのだろうか。ストリングスと絡まったメロディーはひたすら美しい(相変わらずサビはすぐ終わっちゃうけど)。この歌も毒気は少なく、美しい表現で別れが綴られている。「今 ガラスの 星が消えても 空高く書いた文字 いつか君を 照らすだろう」「歪んだ 鏡の向こうに 忘れてた道がある さあ まだらの靴を捨てて」とか、美しすぎて、もし自分が別れの時に歌われたら確実に泣きそう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 音楽
感想投稿日 : 2020年1月14日
読了日 : -
本棚登録日 : 2020年1月14日

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