坂の途中の家

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2016年1月7日発売)
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本棚登録 : 2305
感想 : 330

幼児虐待事件という重い題材をテーマにしながら
補充裁判員という立場から自分の事と家族のことに比較しながら
さらに掘り進められていて補充裁判員でさえも
こんなにも重圧のあるものだというのがとても伝わりました。

読み始めは軽い気持で読んでいましたが、
公判が進むにつれてまるで自分が裁判員になったかのように思えてきて、
里砂子と同じように自分だったらどうだろうかと考えながら
噛み締めるかのように読んでいました。

母親というのは子供を産めば徐々になっていくものだろうと
多くでは語られますが、子供を育てていくというのは
予想外のことやマニュアル通りに行かないことが
日々あることに気付かされます。
子供を産んだこともなく育児もしたことがないので
被告人や里砂子などの心境までには至らないにしても
狭い空間の中で子供と母親とは一対一の関係の中で
どう接していくのかが本当に大変なのかというのが伺い知ることが出来ます。

子育ても上手くいかない中で体調の変化、
そして彼女を取り巻く家族関係、特に夫や両親との付き合い方が
この被告人にとってはとトラブルがあり 、
それが秘火に油を注ぐきっかけになってしまったのかとも思えました。
子育てのこどだけでなく夫のちょっとした言動、
特にモラハラについてはこの作品では本当に怖く思えて
本を読んでいる途中から自分自身も変な錯覚に陥り夫の言動を細かく見てしまいました。
幸いこのようなことはないにしろ、
その日の気分でちょっとしたことの誤解のずれから
夫婦のお互いのずれになってしまうというも怖く思えました。

そして里砂子も思っていた通りに裁判で語られていることが、
他人事ではなく誰もが日常的に送っている風景の中の出来事で
それが事件になってしまうというのがなんとも生々しかったです。

こんな思いをして女性というのは子育てをしているのかと思うと
脱帽する思いでした。
今の世の中は核家族で人間関係も希薄なので 、
子育てを一人でしていくのは実に孤独で大変かということが分かります。
夫、家族、保健師など身近な人にも本音が言えずに
がんじがらめになってしまこと。
このようなことがならないためにも何処か本音を言える場所が
少しでもあれば救いになるのかと思ったりもしました。
それと同時によくニュースなどでこの手の事件が報道されると
両親を悪く思ってしまう傾向がありますが、
この作品を読んだことでまたいっそう事件の見方や
考え方が変わりました。

こんなにも心が鬼気迫る思いがした作品は初めてかと思います。
考えさせられることが多々あり、
読み終わってもまだ整理しきれないところがあり
感情移入100%の社会派エンターテイメントと言わずにはいられない作品で読み応え十分でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年3月26日
読了日 : 2017年3月26日
本棚登録日 : 2017年3月26日

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