男性主人公、しかも変わったやつとかヒモ系とかを語らせるのは絲山秋子 に限ると思う。残念なことにそれを証明するほど読書をしていないが・・・・。
主人公の落ちっぷりが見事で、彼は誰も恨んでいないし、自分を憐れんでもいないし、悲観的にもなっていないし、かといって笑い飛ばすこともできない。とにかく救いがないのである。
誰を恨んでいるのかは薄々わかるのだけれど、気付いていないのか気付かないフリをしているのか・・・。そういうところが現代社会の弱い立場の人たちを見ているようで何とも言えない気持ちになる。もしかすると私も「弱い立場の人」なのかもしれないことにもはっとする。
浪人や留年は許されるが、大学卒業と同時に就職が決まっていないと「負け組」のレッテルを貼られてしまぞと警鐘を鳴らしているようにも見えるし、そういう社会を嘲笑しているようにも見えるこの作品。
大学を出てもそのへんのアパレル系の店で店長をやるくらいしか能がない男、ちゃんと働いていても犯罪行為でしか自分を癒せない女、留学するほど能力があるのに性癖のせいで自分を押し殺してしまう哀れで不愉快さも表せない男。
こういう話を高学歴な絲山秋子のような作家が書くと妙に説得力がありリアリティが増す。だから私は彼女の私生活まで気になってしまうのだ。現代社会の影の部分であったり、人があえて目をそらしてしまうことを堂々としかし悲観的にならずに書ける作家の一人だろう。
まったく不愉快で愉快な1冊であった。不愉快なので星はあえて3つとする。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2012年9月4日
- 読了日 : 2012年9月4日
- 本棚登録日 : 2012年8月30日
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