1890年にアメリカから来日したラフカディオ・ハーン(後に帰化して小泉八雲)が日本各地(主に山陰)を遊行した記録をまとめた本。
ハーンは本書の中で日本、日本人について絶賛している。日本の美しい風景、ありのままの情景、日本人の伝統的徳目、慎ましい態度、愛嬌、信仰、迷信にいたるまであらゆるものを褒め尽くす。
それらの動機にはハーンの西洋的価値観、特に一神教への反発やハーン自身の個人的原体験があると言われており、あまり冷静かつ客観的なものだとは言えない。ただそれでも、明治中期のありのままの日本を描いた資料として有用である。
そうした文化資料的側面は一度置いても、単純に旅行記として面白い。ハーンの独特な感性に基づく仔細な光景描写や、ハーン自身が教師として接した日本人の言動は文作品として高いレベルにあると思う。
ハーンが嘆いた「西洋にかぶれた」今の日本が持っていない美しさが切り取られてそこにあると感じた。
とは言え、現在の限りなく西洋化した日本をこの時代の姿に戻すことなどできはしない。それに日本人が置き去りにした伝統や原体験的姿勢は、間違いなく今の日本人にも受け継がれている。
良くも悪くもそれらは現代の日本という国に影響を与えている。それらは間違いなく、強みにも弱みにもなっている。
重要なことは、この源泉を知ることだ。何が今の没落してしまった日本の原因なのか、反対に何が復活への鍵を握っているのか。それを知り、理解した上で何かを残し、何を捨てるのかを戦略的に策定しなければならない。
なんとなくの流れで生き残れるほどこの世界はぬるくなくなっている。日本人ひとりひとり、老若男女問わずに危機感を持ち、それを考えるべきだ。個人的にはそう考える。そして本書のような本がそのヒントになり得るだろう。
- 感想投稿日 : 2023年7月14日
- 読了日 : 2023年7月13日
- 本棚登録日 : 2023年7月13日
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