楡家の人びと 第一部 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2011年7月5日発売)
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感想 : 38
5

時は大正時代。時代の流れのなかで紡がれる楡家の人々の物語。
物語はその中心地である楡病院の院長にして創始者である楡基一郎の一代記でもある。

楡基一郎は立志伝中の人である。大ぼらふきの気質にして、終始、躁状態を思わせるようなハイテンションで行動が変人。当時の時勢に乗って衆議院議員にもなるほどの野心家でもある。
そして、彼を取り巻く家族がまた個性が際立っていてなかなか楽しい。
印象に残る登場人物では、父・基一郎を尊敬して止まず、偉大な父を厳格に崇め奉っている長女の龍子。
ぼんやりしていてどこか抜けているが、おませなところもある三女の桃子。
龍子と桃子に挟まれてどっちつかずの存在である次女・聖子。
長女・龍子の夫にして「マスオさん」として楡病院を継ぐことになっている徹吉。
家族ではないが楡病院の事務長として権力をふるい、鶴のように歩く腰巾着の院代・勝俣秀吉などなど。
この物語の登場人物はどこか何かが変で抜けているか、規律が厳しいあまりやはりどこか変で可笑しみのある人々が次から次と登場してきて、魅力溢れる物語を形作っている。

物語の始終、どことなくユーモラスな旋律が底流にあって、物語全体に深刻さが欠けているところがまたいい。
『マンボウ』シリーズでも全開になっていたが、作者に流れるユーモアのセンスがこの大河な物語に彩りを添えている。
この楡病院の家族はどことなく作者の家族が投射されているように思われ、私は楡基一郎は躁状態の時の作者本人のことかと思っていたら、どうも大ぼらふきだったという祖父がモデルのようですね。(笑)
これほどの家族の大河な物語にもかかわらず、出だしはあまり登場しない飯炊きの伊助爺さんの豪快な仕事場面というところが、オペラの序曲にも似てわくわく感を醸し出していい。
特に序盤の病院職員全員を集めての賞与式の場面は、それぞれの個性と病院の雰囲気を端的に伝えてくれていてなかなか楽しかった。

時代は大正が終わり昭和の第二部に引き継がれる。
三島由紀夫が絶賛したという本書。第二部の展開が楽しみな限りです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説など
感想投稿日 : 2021年6月13日
読了日 : 2021年5月19日
本棚登録日 : 2021年5月4日

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