塩野七生さん初期の作品で、独特な作風によるお得意の記録文学です。
この作品によって、日本に「チェーザレ・ボルジア」という人物を広く知らしめることに貢献したといえますね。
初期の作品ということで、文章表現に若干の拙さを感じる部分があることや、チェーザレ以外の人物が唐突に登場し過ぎて誰だっけと思うようなことなどはあるものの(笑)、疾風が如きチェーザレの人生に遅れまいとするかのような疾走感溢れる物語展開で目が離せず、とても面白かったです。
父に法王アレッサンドロ六世を持ち、ヴァレンシア大司教から枢機卿という聖界のトップに立ちながらその座をいともあっさりと捨て去り、俗界ではヴァレンティーノ公爵となり教会軍総司令官としてロマーニャ地方を平定、ロマーニャ公国設立ひいてはイタリア統一も射程にいれていたが父法王の死に伴い没落、31歳の若さで戦死するという波乱な人生には憧憬を禁じ得ないです。まさに人生を大いなる野心のもと凝縮して駆け抜けいったという感じでしょうか。しかも、美青年ということでもあり。(笑)
内外を恐怖させたチェーザレの、ロマーニャ地方を蹂躙するかのような過酷で果敢な攻めや、平気で二枚舌を使う悪辣さ、酷薄な戦後処置は、彼の冷徹さ、残虐さ、冷酷さを如何なく示すものであったのに対し、それが一転、それと対称となるかのように坂道を落ちるがごとく没落し、哀れを感じざるを得ないほどの落ちぶれようには目を瞠らざるを得ないですね。
例えていうなら、若さに任せてぶいぶい言わせてきたやんちゃな若者が、鼻っ柱をへし折られ往時の影もなくなってしまったという感じですかね。
何だ、それならどこにでもいそうなヤンキーな兄ちゃん・・・ではやっぱりないか・・・。(^_^;
落ちぶれた様は何だかこちらまで哀しくなってきました・・・。
目的のためには手段を選ばず、己の欲望のみに忠実で計算高い。裏切り者には冷酷な報復を行い絶対に許さない。
こうした彼の手法はニッコロ・マキアヴェッリをして統治のお手本だと言わしめるとともに、互いに過度な干渉はせず互いの才能を利用するだけ利用しようとしたレオナルド・ダ・ヴィンチとの関係といい、やっぱり才能ある人のまわりには才能ある人が集まってくるのですね。
自分も集まりたかったなあ。うそ!(笑)
イタリアの歴史や地理に疎いので地名や人物は何度となく地図や人物紹介を参照する手間があったことや(特に地名はどこに征服に向かったのか都度確かめた(笑))、記録文学という手法からチェーザレを含む登場人物の心情描写がほとんどなかったのはまあいいとして、登場人物の中でこれは重要と思われる人でさえ描写が少なかったこととか(妹ルクレツィアとか弟ガンディア公爵ホアンとか、あるいはジュリアーノ・デッラ・ローヴィレ枢機卿とか)、部下の反乱に至った背景を知るにはあまりにも唐突感があったことなど、もう少し丁寧に描いてもらえればより理解が深めれたと思うシーンが多々あったことは否めないながらも、冒頭の「読者へ」で作者自身も若書きということで欠点はあるけれどあえてそのままにしてあると書いてあって、そのような「若さ」も含めてページ数を感じさせないスピード感が魅力的な物語であったと思います。
- 感想投稿日 : 2017年5月28日
- 読了日 : 2017年5月27日
- 本棚登録日 : 2017年4月30日
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