チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1982年9月28日発売)
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本棚登録 : 2766
感想 : 272
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塩野七生さん初期の作品で、独特な作風によるお得意の記録文学です。
この作品によって、日本に「チェーザレ・ボルジア」という人物を広く知らしめることに貢献したといえますね。
初期の作品ということで、文章表現に若干の拙さを感じる部分があることや、チェーザレ以外の人物が唐突に登場し過ぎて誰だっけと思うようなことなどはあるものの(笑)、疾風が如きチェーザレの人生に遅れまいとするかのような疾走感溢れる物語展開で目が離せず、とても面白かったです。

父に法王アレッサンドロ六世を持ち、ヴァレンシア大司教から枢機卿という聖界のトップに立ちながらその座をいともあっさりと捨て去り、俗界ではヴァレンティーノ公爵となり教会軍総司令官としてロマーニャ地方を平定、ロマーニャ公国設立ひいてはイタリア統一も射程にいれていたが父法王の死に伴い没落、31歳の若さで戦死するという波乱な人生には憧憬を禁じ得ないです。まさに人生を大いなる野心のもと凝縮して駆け抜けいったという感じでしょうか。しかも、美青年ということでもあり。(笑)

内外を恐怖させたチェーザレの、ロマーニャ地方を蹂躙するかのような過酷で果敢な攻めや、平気で二枚舌を使う悪辣さ、酷薄な戦後処置は、彼の冷徹さ、残虐さ、冷酷さを如何なく示すものであったのに対し、それが一転、それと対称となるかのように坂道を落ちるがごとく没落し、哀れを感じざるを得ないほどの落ちぶれようには目を瞠らざるを得ないですね。
例えていうなら、若さに任せてぶいぶい言わせてきたやんちゃな若者が、鼻っ柱をへし折られ往時の影もなくなってしまったという感じですかね。
何だ、それならどこにでもいそうなヤンキーな兄ちゃん・・・ではやっぱりないか・・・。(^_^;
落ちぶれた様は何だかこちらまで哀しくなってきました・・・。

目的のためには手段を選ばず、己の欲望のみに忠実で計算高い。裏切り者には冷酷な報復を行い絶対に許さない。
こうした彼の手法はニッコロ・マキアヴェッリをして統治のお手本だと言わしめるとともに、互いに過度な干渉はせず互いの才能を利用するだけ利用しようとしたレオナルド・ダ・ヴィンチとの関係といい、やっぱり才能ある人のまわりには才能ある人が集まってくるのですね。
自分も集まりたかったなあ。うそ!(笑)

イタリアの歴史や地理に疎いので地名や人物は何度となく地図や人物紹介を参照する手間があったことや(特に地名はどこに征服に向かったのか都度確かめた(笑))、記録文学という手法からチェーザレを含む登場人物の心情描写がほとんどなかったのはまあいいとして、登場人物の中でこれは重要と思われる人でさえ描写が少なかったこととか(妹ルクレツィアとか弟ガンディア公爵ホアンとか、あるいはジュリアーノ・デッラ・ローヴィレ枢機卿とか)、部下の反乱に至った背景を知るにはあまりにも唐突感があったことなど、もう少し丁寧に描いてもらえればより理解が深めれたと思うシーンが多々あったことは否めないながらも、冒頭の「読者へ」で作者自身も若書きということで欠点はあるけれどあえてそのままにしてあると書いてあって、そのような「若さ」も含めてページ数を感じさせないスピード感が魅力的な物語であったと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説など
感想投稿日 : 2017年5月28日
読了日 : 2017年5月27日
本棚登録日 : 2017年4月30日

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コメント 5件

佐藤史緒さんのコメント
2017/06/19

mkt99さん、こんにちは!
いつもながらレビュー楽しく拝読させてもらっております。
この本は高校生のとき愛読しておりました。仰る通り今読むと若書き感が若干あるものの、歴史書と小説の中間くらいのユニークな筆致に夢中になって読んだことを思い出します。

>この作品によって、日本に「チェーザレ・ボルジア」という人物を広く知らしめることに貢献したといえますね。

そして同時に、世界史に「美青年のカリスマ」という萌え要素を導入し、世界史系の歴女を量産した功績も称えられてしかるべきと思う佐藤です。

mkt99さんのコメント
2017/06/20

佐藤史緒さん、こんにちわ。
コメントいただきありがとうございます!(^o^)/

塩野七生さんは独特なジャンルにもかかわらず長く人気が続いていますね。(^o^)
彼女なりにわかりやすく「歴史」を伝えようとする強い意欲には敬服せざるを得ないと思います。

そして、世界史に「美青年のカリスマ」を導入した方でもあったのですね!(笑)
道理で女性ファンが多いと思いました。
私の周囲の女性で塩野七生さんのファンだったという方は多いですもん。(^o^)
これはすなわち登場する美青年君主に萌えていたわけですね。
とすると、塩野七生さんのジャンルはもしかすると少女漫画の延長線上にある!?(笑)

佐藤史緒さんのコメント
2017/06/20

延長線上というより、ど真ん中ストライクですね(笑)美青年君主だけでなく美青年従者をセットで描くところがポイント(?)と思います。

塩野さんは最近はギリシア人の物語を書いているそうですね。中でもハンニバルの戦いの巻が銀英伝ばりに面白いという噂を小耳に挟みました。いつか読んでみたいものです。

佐藤史緒さんのコメント
2017/06/20

失礼しました。ハンニバルはギリシアじゃなくてローマの方ですね
σ(^_^;)

mkt99さんのコメント
2017/06/21

佐藤史緒さん、こんにちわ。
コメントいただきありがとうございます!(^o^)/

ははは。やっぱりど真ん中でしたか!(^o^)
どーりで美青年くさい(?)と思いました!(笑)
なるほど、従者も美青年!?確かにその通りでした。ワン・ツー連続で怒涛の寄せということですね!(笑)

塩野さんの描くハンニバルの戦いは銀英伝ばりなんですか!
それは機会があれば是非読んでみたいところですね。(^_^)
ハンニバル将軍といえばアルプス山脈越えが有名ですが、そういえば銀英伝にも似たような話があったかも。(笑)
ご紹介いただきありがとうございました。m(_ _)m

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