90年代のフィンランド、空前の不況にあえぐなか弱冠29歳という若さで「教育大臣」に就任、一連の「教育改革」を断行しわずか10年あまりでフィンランド経済を立ち直らせる礎を築いたオッリ=ペッカ・ヘイノネンへのインタビューを中心にまとめた一冊。
東日本震災以後、新しい価値観をもつことを迫られているぼくら日本人にとって、ひとつの「提言」となりうるかもという淡い期待を抱きつつ手にとったのだが、読了後はただただため息ばかり……。
まず、補佐官としての経験はあったとはいえ議員経験のまったくない29歳の若者に「教育大臣」として国家存亡の危機を託してしまう大胆さ。しかも本人によれば、議会で足を引っ張られるどころか、大臣就任の決議も含めほとんど全会一致で決まったという。日本では、まずありえない話だ。
そしてさらに、大不況のまっただ中での改革が、すぐには結果の出ない「教育改革」だっという点も驚かされる。付け焼き刃の改革ではダメだという大いなる判断の下とはいえ、「そんな悠長なことをやっていたらその間にたくさんの国民が飢え死にしてしまう」といった反対意見はなかったのだろうか? フィンランド人の「不思議さ」でもある。
しかし結果的に、産業社会からポスト産業社会への転換期ということが後押しになったとはいえ、この「教育」に始まる一連の改革は大成功をおさめ、おもにIT分野での成功というかたちで国を再生させる。
では、日本とフィンランドとの差はどこにあるか? ひとことでいえば「機会の均等」ということへの国民全体の意識の高さ(「誇り」といってもいいかも)であり、政府の国民に寄せる「信頼」(裏を返せば、国民の政府に寄せる「信頼」の)高さである。
カタチを踏襲するのではまったく意味がない。成功する「改革」には、その足下に成功させるための地平が広がっているのだと納得させられた。
北欧のライフスタイルに関心のあるひとは、ぜひ熟読すべき一冊。
- 感想投稿日 : 2011年5月13日
- 読了日 : 2011年5月13日
- 本棚登録日 : 2011年4月24日
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