表題作を含む、中短編集。過去に他媒体で既読のものもあるが、まとめて読めたのは良かった。全体の印象としては"習作集"。大作に取り組む前のデッサン画やスケッチのよう。ああ、この作品のココが『虐殺器官』へ、『ハーモニー』へ、そして『屍者の帝国』へ行くんだなと納得する。なお、"習作集"だからつまらんということではなし。
中でも007シリーズの二次創作と言おうかオマージュと言おうか、その他英国モチーフ満載のフルカラー漫画(!)『女王陛下の所有物』と小説『From the Nothing, With Love』がめちゃくちゃ面白かったなぁ。飛浩隆の言を借りると、世に放たれる"呪詛"はこの作品でも同様だし……。よし、冒頭からちょっと引用--"そのうえでこう言わせて欲しい。私の魂に安らぎあれ、と"。なんという予言的で印象深い文章であることよ。
それにしても伊藤計劃は根っからのエンターテイナーなのだなと思う。あれこれ重たいテーマを世界に突きつけながらも、それでいて同時にきっちりと楽しませてくる。『セカイ、蛮族、ぼく』のようなコミカルテイストの作品ももっと読んでみたかったな。
『屍者の帝国』を書き継ぐと発表した円城塔の作品は、読むと天才の頭の中をこっそり覗き込んでいるような感覚になるが(私はそこが楽しい)、はてさてエンターテイナーが遺した『屍者の帝国』をどう料理するのだろうか。この二人の共作という『解説』がその試金石。どこが円城塔でどこが伊藤計劃か見分けてやろうと目論見ながら読むも、それは見事失敗したのであった(笑) 二人のエッセンスが見事溶けたスープ、ご馳走様でした。『屍者の帝国』がほんとに楽しみ。
あーー『伊藤計劃記録:第弐位相』買おうかな……
- 感想投稿日 : 2012年4月30日
- 読了日 : 2012年4月29日
- 本棚登録日 : 2012年4月30日
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