人はなぜ蠢く虫や閉所や密集する群れなどの、直接、身に危険を及ぼさないものにまで恐怖を感じるのか。精神科医であり作家である著者が、さまざまな恐怖に焦点を当て、正体をさぐるもの。

まず、心理学や脳科学などから恐怖の理由を導き出すものではありません。他の方の感想にもあるように、著者の恐怖体験などをもとに、様々なタイプの恐怖についてまじまじと見つめていく、エッセイのような内容です。
著者が本書で述べているように、人によって何をなぜ怖いと思うのかが異なりすぎて、理由が「一概には言えない」ためエッセイのようなスタイルになっているのかな。
何か科学的に恐怖の正体を暴いてほしいと期待して手に取ると「ちょっと思ってたんと違う」となるかもしれません。(私はそう思った方)

一概に断じることができないほど「恐怖」は人それぞれ。自分が何を怖いと思うかに、自分の人間性の一部が表れていると思うと、怖いと思うものを改めてまじまじ見つめてみたいような、やっぱり怖いような……。

2024年1月5日

読書状況 読み終わった [2024年1月5日]
カテゴリ 文学以外
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様々な国境を様々な角度から描いた絵本。世界を意識し始める歳になったら、より興味深く読むことができるかも。大人の方が、案外、色々と考えるきっかけになりそうです。6年間かけて描かれた絵本とあり、なるほど、どのページも見ごたえ読みごたえがありました。高学年向けのブックトークでも紹介してみたい。

川や山が国境線になっているところもあるし、何の境目も無く人が日常的に行き来しているところもあるし、高い壁やフェンスが聳え立っているところもある。関係性や歴史を物語る国境。身の回りを見れば良くも悪くもこの境目を越えて、様々なものが行き来して、時には弊害もあるけれど、暮らしを豊かにしていることを教えてくれます。そして、境目はあるけれど、共に地球と言う星の上で同じ時を過ごしていることも感じさせてくれて、いい本だな、と思いました。

印象的だったのは、難民の人たちをギッシリと詰め込んだ(人間に対して使いたくない表現ですが、そうとしか形容できないような過酷な状況だという事が伝わってきます)船がポツリと描かれたページ。命がけで国境を越えている人々が描かれています。波は高く、海も空も暗い色をしており、朝日に向かって進んでいるのか、夜を迎えようとしている所なのかもわかりません。願わくば朝日であって欲しいと思うような場面です。

2023年5月10日

読書状況 読み終わった [2023年5月10日]
カテゴリ 絵本

『辺境メシ』『謎の独立国家ソマリランド』の高野秀行さんの笑えて、しかも言語学についても知ってしまえる1冊。謎の生物を求めてアフリカに行ったり、アマゾンに行ったり、体当たりではちゃめちゃな人物の体験記。自分でやれない(それほどやってみたい感じではないのも……)ことのオンパレードで刺激的だった。

語学上達には「伝えたいこと、知りたいことがある」状況が一番いい、言語はアイデンティティ・ネイティブの話す言語はみんな美しい、それから、習得すれば習得するほど「言語はどれもなんて似ているのか」という結論が印象的。

2022年11月5日

このシリーズの「排斥するのではなく、よくわからない存在と折り合いをつけて、生きていく」姿勢が好きだ。

家はくつろいですごせる大切な場所のはずなのに、このシリーズでは、くつろぎの場所ではない。理由も、怪異が起き始めた、元々怪異がある、怪異ではなく家族が害を与えてくる……と様々。簡単に手放せない存在だけに向き合う他ないけれど、日々起こる苦痛や恐怖に鬱々として、向き合う力も奪われる。家は前向きさが一切ない檻のような場所になる。
そんな中、怪異に見舞われる人にあった隈田たちが尾端とつなげて、再び住んでいる人たちが家と共に、前を向いて出発していく。
話の前半は薄暗くひんやりした空気に包まれているので(小野不由美さんのホラー大好き!)、尾端が出てくると、ゆっくりと日が差し始めたような気持ちになり、読後感が良い。その後、登場人物が諸問題から果たして本当に解放されたかはわからないけれど……。

2022年9月17日

ネタバレ

面白かった。最初から最後まで、面白かった。
まもなく隕石の衝突で消し飛ぶだろう九州で、海外に逃げる人、誰かに会いにいく人、自死を選ぶ人……わざわざ殺人を犯す人。ゴーストタウンのような街で、自動車学校に通う子と、そんな子を教える先生が、教習車に隠された死体を見つけた所から、夢中で読んでいた。
冷めてるようで生真面目なハルと、飄々としているけれどある点に関しては異常な執念を燃やすイサガワ先生、さらに仲間が加わっていくのがまた良い。
世の果て、というか、世も末という感じの世界だなと思いながら読んでいると、「この世の果てまで人殺しを追いかけ回すような人間が——恐ろしくて堪らないはずだよ。私が捕まえる」というセリフ。

警察の第三次退職ラッシュで情報が入りずらくなったり、人目がなくインフラも機能しない人殺しの楽園となった町、携帯の電波の有無、外が暗い事など、隕石飛来がもたらした事態が見事に話に絡まって行く。
途中、ある時点まで読んでからもう一度、読み返すと「本当だ。うまく書いてあるな!」となる。
一方で、嫌な人に会うのにそんな場所そんな時間を選ぶかなあ?とも思うんだけど……。
例の人の言動が始終、女性に偏った見方をする奴だったり、最後に天文学者の話が出たり、女性差別への言及も多いのが印象に残った。

今年の12月は火星が再接近と書いてあったので、思わず空を見たら、確かに月のすぐそばに赤い星が。あれが火星かな。

2022年11月10日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2022年11月10日]

図書館で借りたのですが、この本は買おうと思いました。
本が大好きなのに、そろそろ目が見えにくくなってきた王様は、2人の男に世界中から「本」の話を集めるように命じました。(この辺のヨシタケさんと又吉さんらしき2人の男のイラストにまずニヤッとしてしまう)
1年後に戻ってきた2人は一晩ずつ交互に、王様に収集した本の話をします。だから全ての冒頭は「その本は」から始まるのですが、こんなに多彩な本のアイデアが生み出せるなんて、さすが2人の男。

ヨシタケさんから「人間てなんかそういうとこあるよねー」と肩の力を抜いてもらったり、「本て最高だよね」という話を思いきり浴びたりしたかと思うと、又吉さんに笑わされたり泣かされたり。出勤前に読んで、うっかり2回くらい泣いた。

どの夜から読んでも大丈夫なので、王様の気分で時々2人の男の話を聞きたい。自分の家の本棚にぜひいてほしい本。

2022年9月6日

読書状況 読み終わった [2022年9月6日]
カテゴリ 読みたい本

映画「ゲゲゲの謎」から

映画にもこの漫画のエピソードが、少し出てきます。
水木しげるさんの体験をもとに描かれた漫画。
最初に開いた時に、やけに登場人物の紹介が丁寧だなあ、たくさんいるなあと思いながら眺めていました。覚えきれ無さそうだし、読みながらおいおい覚えられるかな、と読み進める事にしました。覚える前に、戦争によって次々とかえらぬ人になっていき、最後まで読んだ頃、ようやくこの本のタイトルをきちんと理解した気がします。あんなにいたはずなのに。

2023年12月25日

読書状況 読み終わった [2023年12月25日]

著者の高峰譲吉はタカジアスターゼやアドレナリンの結晶単離を成功させた実業家。海外でのお酒造りのエピソードではメンタルの鋼ぶりとピンチに動じない発明家ぶりが伺える。やっとうまくいきかけていた工場が、妬みによって放火されて灰になるとか……。よくそこから立ち上がったなと思う。生没年が1854-1922とあるように、活躍していた時代は明治・大正のよう。確かに言葉遣いは古めかしい。

一方、日本は模倣は得意だけど発明ができない国と国内外問わず言われている、発明力があると信じて官民共に発明の奨励をした方が良い、など、今の時代にも言えそうな事が書かれていて、興味深い。

興味深いといえば「大豆が滋養に富み、肉食せぬ国民に肉食と同じ滋養を供する」とあり「大豆は畑のお肉」というのはいつから言われているんだろう?と思った。越後のガスについても言及しており、どの辺に視察に来たのかな、というのもいつか調べてみたいところ。

2023年8月13日

読書状況 読み終わった [2023年8月13日]
カテゴリ 文学以外
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「ぞうさん」「一ねんせいに なったら」など子供の頃に歌ったことはあるけど、まど・みちおさんの詩をまじまじ鑑賞したことがないので、新しい詩集が出た機会に。

・「いい家」
 家が建つと蚊は来るし、蜘蛛も住むようになるし、人間からするとお呼びでないのに。と思うもの。「みんな じぶんを 人間のかぞくだと思っているのだ」の一文に腹立たしさが引っ込む。腕の良い2本足の兄貴だと思われているのなら、冷遇もできない。

・「ぼくが ここに」
 「いること」は何にも脅かされない。

・「どうして いつも」
 一番古いものがいつも新しく現れる

2022年9月4日

読書状況 読み終わった [2022年9月4日]
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森の中の大きな池の睡蓮の上、2匹のかえるがいました。1ぴきは大事にぼうきれを抱えてる。なんでそんなものを抱えているのか?と、抱えていない方のカエルが聞きます。棒を抱えている方のカエルが言います。その理由はというと、いざ犬が来た時に、その棒で「バンバーン!ってやっちまう」ためです。

架空の敵に備えすぎるあまり、両手がずっとふさがったまま一生を過ごすという話かな?それとも備えあれば憂いなしという話かな?と探りさぐり読みました。
2匹のカエルのテンポよいやり取り、目まぐるしく変わる状況、生き生きした自然の描写、どれも面白かったです!

2023年5月17日

読書状況 読み終わった [2023年5月17日]
カテゴリ 絵本

あらすじを読んで、音楽教室にスパイとして潜入という意外な内容に惹かれて手にとった。

先生と教え子の関係は特別で、代替不可能というのは、わかる気がする。

ただ、主人公のスイッチの入り所が。時々、ついていけず、「さっきまで身体的に問題が起こるくらい無理だったのに??」と戸惑った。
信頼関係を築いてきたからと言って、スパイだったことが判明して、信頼関係がぶち壊れた上に、満足に別れも言わずに連絡を絶った人間を、音楽教室の面々が割とすんなり受け入れているのも……いや、強い関係性が築かれていたのなら、樹の言い分も聞こうってなる……なるんか?
あと、騙してきた人間から「会社辞めました」って言われて、すぐ信じられるものなのだろうか、とか。正体がバレているので今更そんな嘘ついてもメリットないとかそういう感じかな……。

それはともかく、著作権の意義などにも触れてはいるけど、それよりも人が人に音楽を伝えることとか、音楽を介して人間がつながり合うことの意味を改めて考えさせられた本だった。

2022年9月25日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2022年9月25日]

「はじめに」と「おわりに」を飛ばし読みすることもあるけど、この本では読んでよかったです。稲川淳二さんの怪談に対する姿勢がうかがえて、より好きになりました。
稲川さんの語りそのものの文章なので、彼の声で脳内再生されましたが、自分の脳内再生だとちょっとゆっくり再生になるな……と、変な発見も。読み手の読む速度に制限されたとしても、生々しいあの感じは損なわれないのが面白い。稲川さんの語りって、文字になってものすごく冷静に読むと「バッと行ってグアー---」みたいな「それ、どんな状態???」という文章があるのですが、口語そのままの勢いとリズムに乗って読むと、その時の風景をクッキリと思い浮かべられる(気がする)んですね。どんな話もそうでしょうが、特に怪談話というのは、語り手と読み手の両方によって完成するのでは、と感じました。
一つ、古典的な怪談も収録されているのですが、稲川淳二さんが語るとテンポよく、まるでその時代に、その場所にいたかのように生々しく話してくれるので、古臭さを感じませんでした。稲川淳二さん、すごい!

2022年7月31日

読書状況 読み終わった [2022年7月31日]
カテゴリ 文学以外

児童向けですが、自分の子どもに読み聞かせをしている大人や、読み聞かせをしていた大人もニッコリしそうな素敵なお話。

そういえば、親や先生から読んでもらう時に「どうも、読む速度やめくりのタイミングが違うんだよなー……あと、声の感じ……」と(今にして思えばそういうことを)思って、自分で読むようになった気がします。
大人が読んでくれると、大体、理解度を確認しようとしているのか、感想を言わされたりやクイズめいたことをしてくるのがプレッシャーで嫌だったのもあるかも。
誰かと読むことから一度離れて、自分で読むようになって、それからまた誰かと読むことを楽しめるようになるまで、しばらくかかったんだな、と改めて思った1冊。

レッツは読んでもらったのを「まちがい」と思うのですが、お父さんもお母さんも、読んでもらって喜んでいた事実ごと、大きくなったレッツを受け止めようとしています。また読んで欲しくなったらいつでも読むよ、という安心感も良いです。大人として、かくありたい。

2022年7月1日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2022年7月1日]
カテゴリ 児童文学

細けぇこたあ良いんだよぉっ!って感じ(病の妻子を置いて遠くに行くタイプの人かなあ?)で、勢いにのってガッと読むエンタメ時代小説。帯にもあったけど、若い世代にもおススメできる時代小説でした。

るろうに剣心とあずみとBLEACHを履修してきたので、こういう感じねっ!承知した!と楽しみながら一気読みしました。メディア化してもビックリしない。響陣系のキャラに昔からワクワクさせられてきました。続巻でも活躍を見たいところ。愁二郎の格好良さが引き立つと思いつつも、双葉ちゃんが今の所、ピーチ姫ポジション(るろ剣で言ったら、映画の薫さん)だけど、この後はどうかなと続きが気になります。早く読みたい。

2022年12月25日

美しい表紙に惹かれて手にとりました。
おはなしもかわいらしくて、ハッピーエンドでホッとします。

甘い香りが漂ってきそうな素敵なケーキ屋さん、表情豊かで心優しい小さな陶器のミリー、暖かさそうなお部屋と遊び盛りな子どもたち。眺めているだけでも、冬休みのウキウキした気分を思い出させてくれます。

いつ読んでも、もちろん良いけれど、冬に(できれば1月に!)暖かいお部屋でゆっくりのんびり読めたら良いですね。さらにそこに暖かい紅茶とケーキも加われば、言うことなし。思わず表紙のベルのような表情になっちゃうかも。

さすがアーティストたちのお部屋だけあって、美しい。調度品の置き場所一つ一つにもこだわりを感じる(案外、本人たちは無造作に置いたのかもしれないし、そうだとしても美しい配置になってしまうのかもしれない)。
美術館や博物館、すごく宿泊代が高いホテルの如きお部屋が並ぶ。
美しいんだけど、これ、落ち着くのかな。いや、歴史に名を残すアーティストともなるともしかしたら、部屋に落ち着きなど求めていないのかもしれない。謎の彫刻と同居し、部屋の壁には皿を並べかけまくり、重々しい柄の壁紙に包まれてこそ、インスピレーションが沸くのだろうし、あるいは沸きまくってしまうインスピレーションがこういう形で表出しているのだろう。
などと、勝手に思いながら一軒一軒、堪能した。どの家にも暮らしてみたいと思えなかったが、もしかして私はアーティストに向いてないのか。そもそも普段から何か嗜んでいるわけでもないので、それもそうか。
たまにこの本のことを思い出して、開いてみて「おお、心の友よ」とか思えたら、アーティスト気質が1%くらいは芽生えているのかもしれない。

1泊してみたいな、と思うのは建築家さんのお部屋。
あと、作家さんのお部屋。本が多くて居心地良さそう。どんな本が並んでいるのかも気になるところ。

2023年9月18日

作中でもう戦争が終われば平和な時代が続くだろうと、登場人物が語っているのを何とも言えない気分で読んだ。
漫画化で話題の『戦争は女の顔をしていない』も登場、併せて読みたい。

狙撃兵を含め戦争に従事した人々は、戦場から生きて帰っても、その後の人生に深い影を落とされる。強い復讐心に生かされていたセラフィマが、イリーナや仲間や生き甲斐でなんとか人生を支えているようにも見え、現実の世界で戦争と関わらざるをえない人たちのことが頭をよぎる。

「お前は今、どこにいる?」が印象的なセリフ。大きな時代の流れの中で、自分のありようを見失わないことは難しい。

2022年9月23日

読書状況 読み終わった [2022年9月23日]
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スマホ脳を読んだので、続いてこちらを。
子ども向けを意識して書かれたものです。

結論、「とにかく運動すると脳が鍛えられる」

2022年3月24日

読書状況 読み終わった [2022年3月24日]
カテゴリ 文学以外
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主人公はジョン・ミダス少年。ミダス。解説にあるように、ギリシャ神話に出てくる金が大好きなミダス王のお話がモチーフになっています。

最初は口に入れたものがなんでもチョコになることを喜ぶミダス少年でしたが、途中から喉が渇いてきて水が恋しくなります。今までは粗末にしてた果物や野菜などの“体に良いもの“ですら恋しくなってきます。やがてお母さんまでもチョコにしてしまい、心底、お母さんを元に戻してほしいと祈ります。
現代版のミダス王の物語か。と思ったら、書かれたのは70年前。今に至るまで世界中で読み継がれているそうです。言い回しなんかは、なるほど、確かに少し昔の海外児童文学という感じですが、お話の展開に惹かれて最後までするする読めました。
歯磨き粉や手袋など明らかに口に入れたら不味そうなものまでチョコ味だ!と言って喜びながら食べてしまうシーンは、かなり不気味でした。不思議なお店に不思議なアイテム。銭天堂好きには、そのあたりのキーワードを伝えたい。

どの章から読んでも良い、読む順番で印象が変わる本。N通りの表情を見せる小説。
なんて面白い試みだろう、本にこんな可能性があるんだ。

一つの町を舞台に、各章で波紋同士が一部重なるように登場人物が重なる。ある章では脇役だった人物が、ある章では主役になっていたり、他の章では明確に描かれていなかった事実が別の章で明かされたりと、繋がりあい、重なることで解像度が上がっていく。
読み方で結末が大きく変わるわけではないけれど、読後感はかなり左右されるのでは、と感じた。

読んだ順番
名のない毒液と花
 ↓
眠らない刑事と犬(ペット探偵のその後だから。以下読む順番は気分で選んだ)
 ↓
笑わない少女の死(ニュースペーパー先生、頑張って)
 ↓
飛べない雄蜂の嘘(笑わない少女とも消えない硝子ともリンクする)
 ↓
落ちない魔球と鳥(ペット探偵が追っていたヨウムって……。てか、ニシキモさん!ラストであれが見れてて良かったね)
 ↓
消えない硝子の星(笑わない少女を先に読んだから切ない)

割といい終わり方になったと思う。

2022年10月20日

読書状況 読み終わった [2022年10月20日]

プロファイリングの歴史的な発展の道筋、分析の仕方などについて書かれている。同じタイプの犯罪から特徴となる行動を項目化していき、他のどの項目と関連性があるのか(あるいは無いと考えられそうなのか)、起こった件数はどの程度なのか、などをマトリクス表に起こして空間マップに落とし込んでいるようす。
実際の事件を追うごとに、かつて言われていた説が「当てはまらないケース」も出てきて、今後も研究の余地がありと書かれている分野も。
安易に「このタイプはこうだ」と言い切らない姿勢が窺えて、ホッとする。別の本で、心理学者とは人の心は簡単に読めたりしないという事を最も理解している人だ、という趣旨の言葉が書かれていたことを思い出した。

2024年1月30日

読書状況 読み終わった [2024年1月30日]
カテゴリ 文学以外

「いちばんわるいのは ばあばが わらわなくなったこと」と思えるファーンは、素敵な子。
ばあばがワーイ!となれるように公園にワーイを撮りに行こうとする。とれるの? と思うけれど、ばあばに持ち帰らないといけないから、かなあ。
よろこびについて「ひとのこころを しあわせにして めをかがやかせるものよ」と聞いて、すぐに○○みたい?と聞けるのは、普段から良い時間を過ごしているんだな、と伺わせる。
公園でワーイ!がある時の流れが①何かしらのワーイ!がある②ファーンが「ワァーイ!」と接して微笑むあるいは笑う③ワァーイ!と喜びが湧く(④持って帰れない)
→喜びを知り、喜びに気づいて、受け取れることで喜び・幸せが完成する。けれど、形があるわけではないので、持ち帰ることはできない。
自分のために一生懸命喜びを集めてくれようとしたファーンの存在が、おばあちゃんにとっては喜びそのもの。おばあちゃんもワァーイ!を受け取れるようになって、ホッとする最後。
大人も、喜びや幸せってなんだっけ?という気分の時に、ヒントになりそう。

読み聞かせだと「ワァーイ!」が難しい……。私も最近、ワァーイ!が足りてないのかも。探しにいくか……。

やられた!という気持ち良さと、再推理という状況が面白かったです。再推理って。

正直、コッテコテのドジっ子美少女設定に「ステレオタイプなありえない系天然女子だ……怪異の描き方もホラーじゃないから怖くないや……」と思いながら読んでいたのですが。が、全部、それごとまとめて、やられました。
「んー?」とモヤっとする推理があるのですが、それが、霊媒という前提がない状態での再推理で、ちゃんと答えにつながるというのが、良かった。

ネタバレ

映画が面白かったので。

早い段階で複数人による(参加者も明かされている)犯罪だと明かされるのだが、誰がどのパートを担ったのか考えたり、二転三転する話に引っ張られたりするうち、最後まで一気に読んだ。
本文でアガサクリスティが出てくるのは、オリエント急行が念頭にある、という感じだろうか。パレードも車両も連なる存在、過去と現在もまた連なっている。

「沈黙」の書かれ方が面白かった。利己的な「沈黙」、利他的な「沈黙」、生者の「沈黙」、死者の「沈黙」、沈黙が持つ強さ、証言という言葉に頼る心許なさ、あるいは言葉が持つ強さ。
映画だと役者さんが、様々な感情を載せて言葉を重ねていくので、より「沈黙」について印象深かったのかもしれない。

沈黙は真実を覆うほどの力を持つのか?と、物語の序盤でモヤモヤさせてくるが、それに対して湯川先生が言葉を交わし続けて事態を動かしていき、やがて沈黙が破れられる辺りが面白い。
今回の文庫本カバーの「容疑者Xはひとりじゃない。」というキャッチコピーも好き。「一人」ではないし「独り」でもない。だからこそこんな事件になった。

湯川先生が容疑者Xの献身について話すから思わず再読したくなった。それにしても湯川先生、アメリカに行ってずいぶん人間味が増しましたね……。

2022年9月23日

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