日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中公新書)

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  • 中央公論新社 (2017年12月20日発売)
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 ここ20年くらい前から日本近代史学界では「兵士の視点・体験」からの戦争史・軍事史研究が盛んだが、本書は1941~45年のアジア・太平洋戦争に焦点を絞った、そうした研究動向の現時点におけるコンパクトなダイジェストといえる。餓死、自殺、他殺、薬物中毒、精神疾患、感染症、私的制裁、略奪、人肉食といった極限状況における日本軍兵士の「死と病理」を生々しい記録・証言によって明らかにしている。単に兵士の悲惨な実情を示すのみならず、その構造的原因を経済・文化的背景を含めて分析することで、立体的な歴史像を構築している。注意するべきは、いわゆる「後知恵」的な批判・裁断は極力行わず、批判するにしても同時代人の軍人・軍関係者の直接の言葉をもって行っていることで、「当時の感覚」としても問題が意識化されていたことがわかるような叙述になっていることであろう。近年の根拠のない「日本軍礼賛」「日本人自画自賛」風潮への批判意識は明瞭だが、そうした先入観なく「事実」をありのままに知らしめるための工夫といえる。

 なお個人的には、本書で示される日本軍の構造・特質がどうしても現在の日本企業と重なって仕方なかったことを付言しておく。過労死・過労自殺が恒常化している劣悪な職場環境や、「自己責任」の名の下で次々と弱者に抑圧が移譲される状況、作戦至上主義ならぬ成果至上主義による人間性の荒廃、問題を根本的に改めず精神主義的な対応に終始する国家の対応など、あまりにも相似している。改めて「戦前と戦後の連続性」を深刻に捉える必要を感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史(近代・現代)
感想投稿日 : 2018年6月25日
読了日 : 2018年6月25日
本棚登録日 : 2018年6月25日

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