戦後日本の「貧困」の変遷をそれぞれの時代に沿って具体的な事実を通して(できるだけ当事者性を重視して)まとめている。貧困者の生活・家計の実情が具体的にわかる同時代史料を多く引用しており、数字の羅列ではない「生きた」戦後生活史・都市社会史として情報量が非常に多い。他方、本書では直接の批判は抑えているが、一貫して貧困を生み、貧者を食い物にする市場・企業の飽くなき欲望や、開発主義と治安主義のもとで貧困者を排除するばかりの政治、貧困者への攻撃・バッシングに加担する多数派大衆の存在が通奏低音のように響く。著者は最後に貧困の責任を個人に引き受けさせる日本社会を変えるにはどうすればよいか自問しているが、それに対しては多数決原理から逃れられない議会制民主主義をやめて、反貧困の強い意志を持った政治集団が市場や大衆を制圧するジャコバン的独裁しかないと答えざるを得ない。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
評論・論説
- 感想投稿日 : 2018年4月19日
- 読了日 : 2018年4月19日
- 本棚登録日 : 2018年4月19日
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