向井帯刀の発心 物書同心居眠り紋蔵 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2010年1月15日発売)
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感想 : 8
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・与話情浮貸横車(よわなさけうきがしのよこぐるま)
・歩行新宿 旅籠屋(ほこうしんじゅく たびかごや)
・逃げる文吉
・黒川静右衛門の報復
・韓信の胯くぐり
・どうして九両(くれよう)三分二朱
・旗本向井帯刀の発心

武士の、家で役職を代々受け継いでいくということの厳しさ苦しさというのをここまで深く実感させられたことはない。自分の職場の上司も同僚も後輩もみんな親から引き継いだ仕事なのだ。親の後輩から仕事を教えられ、自分の同僚の子を後輩に持ち、上司の子がまた自分と自分の子の上司になりるのだ。とてもとても恐ろしいほどに狭い世界で生きている。

自分の跡取り息子を与力から養子にと言われれば断れず、子供同士の喧嘩なのに、相手が上司の息子なら、ゆくゆくは自分の息子の上司になるわけだから、自分だけが我慢すればいい話ではない。波風立てずに穏便に治めなくては、自分だけでなく、息子の希望の配属にも関わってくるのである。大変窮屈で気苦労の多い生活である。

武士は「お家(いえ)が一番」というのは分かっていたが、こうやって丁寧に書かれている小説は殆どなく、改めて日々の些細な出来事を処理する時にこの狭い環境で適切な対人関係を考慮しなくては生活できないということが理解できた。

武士って想像以上に苦しい環境だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代小説
感想投稿日 : 2017年3月30日
読了日 : 2017年3月25日
本棚登録日 : 2017年3月30日

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