十二歳 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2007年12月14日発売)
3.25
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本棚登録 : 393
感想 : 56
3

まだまだ小さいと思っていた、わたしの娘。
12歳がだんだん迫ってきて、ときに難しくなってきた。
はて、12歳とはどんなことを考えていたっけ? と思い手に取った本作。
実際には娘も読めるように青い鳥文庫版を手に取りました。

椰月美智子さんは初めて。
本作はデビュー作にあたるようで、確かにところどころかなり荒いが別の話も読んでみたいなあと思わせる筆力を感じた。
けれどやはり気になるところはいつまでも気になってしまい、特に途中から作者が前面に出てきて「さえ」を使って昔語りを始めてしまうような近さがこの本の根幹が語られていく場面で出てくるので、残念ながら大事なところで集中力が切れてしまった。

それでも、色んなことがジェットコースターのようにめまぐるしく過ぎ去っていったのに、あるものについてはいつまでも濃く、アンバランスで危うくて、ダサくてイタい……でもそういうものこそ今の自分のベースになっているあの貴重な時間のことを「人間離れ」するさえを見ながら思い出した。

身体の変化や思想の変化、あんなに近いと思っていた友達と自分との間に横たわる相容れない距離、不意に顔を上げたときの世界と自分との間にある果てしなさ、それでも自分は何者かになれるだろうという楽観と、そうかと思えば深淵の前で背中をトンと押されるかのようなあの急転直下の絶望と。
あるいは、どんなことにも自分の想像を超える努力や継続が必要なのだ(あるいは”だったのだ”)という当たり前の、だが天井ごと落ちてくるような避けきれない事実に直面したときのやさぐれ感。などなど。


さて、本作は「さえ」の抱えるこころの靄がラストまでハッキリと分かりやすく晴れることはない。
「ああ! もう少しで思い出せそう……!」というときのような歯痒い描写であれこれ描かれていたと思えば、ラストでは勝手に自分の中で解決してしまったようで、読者であるわたしを置いて晴れ晴れと小学校を卒業してしまったので読後は寂しかった。

いや、実際には「さえ」の心の中で何が起こり、どう解決したのかは書かれてはいるのだがそれがあまりにも作者の個人的な実感に基づきすぎている気がしてしまい気になるのだ。
作者がいかに12歳の自分に戻って書いたとて、本当の12歳になれたわけでない。
そしてまた、12歳を思い出すつもりで読むわたしもいい大人で、どれだけ没頭しても決して本当の12歳にはなれない。
分かっている。
だが、そうだとしてももしわたしが12歳でこの本を手にしていたら、「さえ」が短いページ数の中で、最後は駆け足で箇条書きのようなスピード感で解決してしまった(あるいは自分の中で落としどころを見つけてすっきりしてしまった)ことにとても裏切られたような気持ちになってしまうかもしれないなあと思ったのでした。
いやいや、救われる12歳もいるのだろうから、わたしに合わなかったというだけのことです。
なのでいつまでも大人の作者の姿を透けて見てしまうのをやめられなかったのが申し訳なかったです。

でも児童文学面白いなあ。
大人でも夢中になれるカテゴリーなのですね……!(目から鱗)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 椰月美智子
感想投稿日 : 2023年7月3日
読了日 : 2023年7月3日
本棚登録日 : 2023年7月3日

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