日本人の美意識 (中公文庫 キ 3-10)

  • 中央公論新社 (1999年4月18日発売)
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感想 : 14
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はじめてキーン氏の著作を読みました。とても感銘を受けました。私自身は日本文化の専門家ではないですが、なるほどと思わせる箇所が多々ありました。まず母国語が英語であるからこそはっきりとわかる日本文化の特徴、たとえば日本語に置ける主語の曖昧さや、一つの表現から複数の解釈が可能なものについてキーン氏による鋭い指摘がなされています(本書では「秋の暮れ」という表現の場合にこれは秋が終わりつつある時期を指しているのか、あるいは、ある秋の日の夕暮れ時をさしているのか、という事例が紹介されている)。
本書は日本の平安時代から現代まで、トピック的にではありますが、各時代の日本文化の特色を述べていて、後半では日清戦争が日本文化に及ぼした影響についても解釈がなされています。こういう視点で戦争を見た事がなかったので、とても参考になりました。また面白いなと感じたのが、明治維新直後にすでに学校教育を英語に切り替えようという議論があったということで、現在もそういう議論はぽつぽつと出てくる訳ですが、なにか日本が自分たちに自信を失ったとき(現在で言えば日本的経営の限界?)、この議論が頭をもたげるのかなと感じました。
そして本書を読んで一番強く思ったのは、日本人の美意識は、これはこれで世界に誇れる物だから、「グローバルスタンダード」には遠いかもしれませんが、むしろ胸を張って世界にアピールしていきたい、ということです。本書の冒頭で、日本人の美意識の1つに曖昧さを尊ぶ、という項目が挙げられていますが、曖昧さが許されている言語というのは考えようによっては何とも贅沢ではないですか。多民族国家ではこれは許されません。ということで本書を読んで、我々日本人が持つ文化、美意識は何とも贅沢な環境で育ってきたのだと実感しました。
最後に余談ですが、私自身も日本語の曖昧さが想像力をかき立てる事に対してポジティブな感覚を持つ人間なのですが、本書を読んで、私がなぜイギリス人画家ウィリアム・ターナーの作品が好きか分かった気がしました。彼の作品は霧が重要な役割を果たしていて、我々の想像力をかき立ててくれるのです(いったいこの向こうで何が起こっているのか?という感覚)。ということで本書を読んで、なぜ自分が彼の作品を好きなのかに気づかさせてもらいました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年4月26日
読了日 : 2014年8月16日
本棚登録日 : 2023年4月26日

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