脱成長と欲望の資本主義

  • 東洋経済新報社 (2022年8月19日発売)
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一気に読了できました。最初にチェコ人のセドラチェクと「人新世の資本論」で有名な斎藤幸平氏の対談がありますが、「ある意味」この対談は面白い。というのも二人の議論が平行線をたどっていて、特に後半は「嚙み合っていない感」がすごいことになっているのです。
私はチェコ人の友人・知人が何人かいるのですが、ソ連の支配を直に体験している彼らは、コミュニズムという概念の「実態としての」醜悪さを肌で感じているわけです。チェコ人の知人数人と東京の居酒屋に行ったところ、彼らがお酒を飲みながら歌っているので何の歌?と聞いたらソ連(ロシア)を揶揄している歌だと言っていたのが印象的。

それに対して斎藤氏は、これまでに実在したコミュニズムではない、別のコミュニズムを模索するのだ、と主張しますが、セドラチェクからすると、「コミュニズム」を標榜する思想は何にせよ堕落する、という信念があるような印象も受けました。私もセドラチェクに賛成で、仮に斎藤氏に賛同する人が集まって、彼のいう「脱成長コミュニズム」が構築されたとしても、おそらく短期間の間に離脱者が別の流派を立ち上げる(例:俺の方が真の意味での脱成長コミュニズムなんだと主張する)、あるいは脱成長コミュニズムの中で権力を得ようとする人物が出るなど、あっという間に理想からかけ離れた状態になるのではないでしょうか。そのあたりの人間洞察力はセドラチェクの方が圧倒的に高い印象を持ちました。

中盤と後半はエレファントカーブで有名なミラノヴィッチと、監視資本主義を書いたズボフへのインタビュー記事ですが、こちらは想定内という感じでした。ミラノヴィッチは「中国は資本主義社会だ」と言って驚かれたということですが、そんなことは多くの日本人にとって当たり前のことだったのでは。いつも思うのですが、中国という国の理解については、欧米の知識人よりも日本の一般人の方が優れている気がします。

ズボフは、要するにGAFA批判をし続けているだけなのですが、彼女は視野が狭い気がしてなりません。AIが進化した先には、GAFAすらもAIをコントロールできない、AIが自律的に監視をする社会も(SF的ですが)ありえて、私は個人的にはそのような社会の可能性についてより関心があります(GAFA批判モノは食傷気味だからです)。

個人的には最後の丸山氏の解説が一番面白かったかもしれません。特に丸山氏が「脱成長」というよりも「脱構築」ではないか、という主張には共感できました。私も個人的には「脱成長」ではなく何の成長なのか、成長という概念を脱構築することの方が重要だと感じています。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年11月12日
読了日 : 2023年11月12日
本棚登録日 : 2023年11月12日

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