Who Gets What: マッチメイキングとマーケットデザインの新しい経済学

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2016年3月1日発売)
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本書は2012年にノーベル経済学賞を受賞したアルビン・ロス氏によるマッチメイキングとマーケットデザインの入門書になります。価格の調整だけですべての参加者が納得するような市場はコモディティ市場と呼ばれていて、小麦などがその例になりますが、多くの市場では価格という「見えざる手」だけでは売り買いを調整できない市場がたくさんあり、そこではマーケットをデザインする(エンジニアリングする)必要があるのです。つまり市場の失敗を、人間の叡智で解決していこう、という実践的な領域だと言えます。本書では、「市場の厚み」「混雑への対応」「安心そして簡単に利用できること」をマーケットデザインの要諦としていて、これは最近のプラットフォーム企業にとっても非常に重要な視点だと思いました。

経済学を理論経済と実証経済という風に2つに分類することありますが、本書の内容は両方を網羅していることになります。つまり、まず仮説(理論)を構築し、それを実際に導入してうまくいくかを見る、ダメなら仮説を修正して再度実践する、というスパイラル的な動きです。その意味では、工学分野のエンジニアのように経済学者も世の中に役立つのだ、ということを示す領域だと言えるでしょう。リーマンショック後、混乱を引き起こした諸悪の根源として経済学をみるような風潮も生まれましたが、経済学すべてが悪いわけではなく、人間理解を深める中で経済学の知識を正しく使えば、本書で示されているように人々の生活を向上させることができるのです。

さすがにノーベル賞を受賞した方だけあって、各所に含蓄を感じましたし、初心者にもわかりやすいように本書は書かれていると思います。一番印象的だったのは、著者が市場を言語のアナロジーとして議論している点です。市場も言語も、人間の社会生活をスムーズに進めるために人間が生み出したもので、時代が変わればそれに適応するように変わっていく必要があるのでしょう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年5月2日
読了日 : 2018年12月2日
本棚登録日 : 2023年5月2日

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