ローマ人の物語 (3) 勝者の混迷

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  • 新潮社 (1994年8月1日発売)
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第二次ポエニ戦役に勝利し、地中海の覇権を不動のものとしたローマであるが、大きくなりすぎた反動が自身を襲う。属州となったシラクサから安価な農産物が入るようになり、ローマの農業者は葡萄畑などに転換するしかなくなったが、この転換には多額の投資が必要であった。投資能力のない者は土地を富裕層に譲渡せざるを得ず、格差が拡大したのである。
このような背景の中、グラックス兄弟が登場する。兄のティベリウス・グラックスは、大規模農地の所有権を放棄させる農地法を護民官として提案し民衆に支持されるも、これが富裕層が多くを占める元老院の反感を買う。護民官への再選を期した集会において、反対派(背後には元老院が控えている)に撲殺されてしまう。兄の意思は弟のガイウス・グラックスに引き継がれ、農地法の復活に留まらず、陪審員を元老院のみでなく騎士階級にも広げたり、ローマ市民権をラテン同盟国にも与える提案をしたため、兄弟そろって元老院の反感を買ってしまう。元老院はガイウスの同僚(フラックス)への工作を図り、ガイウスよりも民衆受けする法案をフラックスに提案させることで、元老院はガイウスの護民官への再選の妨害に成功する。ガイウスの提案が次々と廃案になるのを目の当たりにした民衆は騒動を起こし、元老院最終勧告が発令され、ガイウスは奴隷と共に自殺に追い込まれるのであった。護民官の立場で元老院に立ち向かうのがグラックス兄弟の改革の失敗と分析していた部分は学びを感じた。平民出身であるが、ローマでの絶対権力を誇るようになるガイウス・マリウスは護民官ではなく、執政官の立場で改革を実施し実を結ぶのである。
マリウスは平民であるが、軍事面での功績を足掛かりとして、政治家のキャリアを歩み始める。当時のローマでの徴兵制度は、税金(血の税)としての側面もあったため、民衆の格差拡大の影響を受け軍が弱体化していた。マリウスはこれを志願制にすることで、職業軍人をベースにした軍編成を行い軍事強化に成功する。軍制改革により順調に戦果を挙げるマリウスであったが、この軍制改革が同盟国の反乱を招いていしまう。ローマ市民にとっての兵は「職業」であるが、ラテン市民にとっては「義務」であったためである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年2月19日
読了日 : 2023年2月19日
本棚登録日 : 2023年2月19日

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