初めてフィリップ・K・ディックの作品を読んだ。ストーリーははっきりしている。登場人物の関係性もわかる。緊張感をはらんだシーンも続いて飽きることなく読み進むことができる。度々現れる卦の部分も物語を進める装置としてうまく働いている。ではこの小説全体としてどういう意味なのか?と問われると、うまく答えられる自信はない。
歴史の逆転する仮説そのものを細かく書き出すことには、例えそれが一つの重要な要素であるとしても、最も大きな意味があるということではないだろう。その小説の中で、その小説のなかの現実とは逆の世界を描いた小説、つまり本当の歴史に近いものが登場人物によって書かれて、読まれているというのはさらに大きな意味はあるのだろうけどそれ自体は小説の構造を成しているという意味で重要であるが、描かれた世界の持つ意味はなんだろう?
「イナゴ」を書いたアベンゼンの空虚さはどう理解すれば良いのか。バイネスと矢田部の意味のありそうで空虚な会談は田上の心を揺らすための仕掛けなのか。最後まで会うことのないフリンク夫妻が混沌とした世界の良心のように見えるけど、結局のところ易経に依存して生きているようにも見える。とはいえフランクフリンクとチルダンはアメリカ人としての良心のようなものを自分たちが作り出して世の中に出していくアクセサリーの中に見出しているように感じられて、それがこの世界の希望のようにも見える。
高い城は結局現れず、そこには底の知れない空虚さが口を開けている。わずかながらの良心のようなものが風に吹かれて偶然のように過ぎ去っていく。
理解を超えた部分で心に残る作品。
- 感想投稿日 : 2021年12月27日
- 読了日 : 2021年12月27日
- 本棚登録日 : 2021年12月27日
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