学びとは何か
〈探究人〉になるために
岩波新書 新赤版1596
著:今井 むつみ
おもしろかった。
学びというものを、スキームという概念をつかって説明する書です
人間は本来天動説を実感している。
不安定な球の上に住んでいるというのは、どうみたってまともな人間の考えることではない。
地動説とは頭でわかっていても、身体が信じているのは、皆天動説なのである
つまりもともと、人間は、天動説のスキームをもっているのである
それを、地動説を信じるというのは、その人のこれまでの体験を全否定すること、
これをコペルニクス的転回というが、必要なのである。
気になったのは次です。
■はじめに
・本書では、認知科学の観点から学びについて考えていく
・認知科学とは人のこころの働きとその背後にあるしくみを理解することを目的とした学問である
・あることを長い間つづけていくと、そのことに習熟し、熟達する
・熟達者になると学習を始めたときに比べ、行動が大きく変わる
・一般的に「熟達者」というと、スポーツや、芸術、技能、将棋や囲碁、外国語など、普通の人はしない(できない)特別な分野での達人のように考え勝ちだ。
・しかし、熟達は誰にでも起こる。
・学習することは熟達に向かう過程なのである
・「よい学び」を実現するためには、まず、一人ひとりが自分は何を目的にして学びたいのかを考え、その目的のために最もよい方法は何かを考え、それを実践しつづける「学びの探究人」であってほしい
■誰にでもできる探究
・究極の学習というのは、「自分をきちんと客観的に知る」(メタ認知)と、「相手の気持ち、考え方、感情を知る」(思いやり)であると思っています
■記憶と知識
・「学ぶ」ということは「覚える」ということと深いかかわりがある
・「よく覚えられる」というときには、「記憶に入れるプロセス」と、「記憶を取り出すプロセス」の2つの異なるプロセスがかかわっている
・外界の情報はまず「瞬間記憶貯蔵庫」に入る
・「瞬間記憶貯蔵庫」に入れられた情報はさらに、「短期の記憶貯蔵庫」に入る
・「短期の記憶貯蔵庫」もまた、一時的な、コンピュータにたとえれば、「バッファ」のようなものだ
・時間がたってから思い出そうとおもったら、情報は、「長期の記憶貯蔵庫」に移されなければならない
・「短期の記憶貯蔵庫」に入れられる情報は多くて7つだ
・達人はもともとは関係ない情報をうまく関連づけ、ひとつの塊にしてしまい、塊のまま覚える
・知識が使えない状況では理解が難しく、したがって記憶もできない、つまり、学習ができない
・知識は、身体の一部になってこそ生きて使える、逆にいえば、身体の一部になっていない情報は使えない
■乗り越えなければならない壁
・人は何か新しいことを学ぼうとするときには必ず、すでに持っている知識を使う
・自分がそのような知識をもっているということに気づかずに無意識につかっている場合も多い。
・スキーマは、そのような知識だ
・スキーマとは、心理学の用語で、何かを理解するために、行間を補うような、常識的な知識のことをいう
・スキーマに関連して容易に理解された情報のみが記憶され、スキーマにあわない情報は記憶されることはあまりない
・スキーマが誤ったものであると、何が起きるか。問題解決に必要な情報に目が行かず、関係ない情報ばかり注目してしまう
・その結果、誤った思い込み知識は、修正されるどころか強化されてしまう
・そういうことが繰り返されるので、誤ったスキームの修正は難しいのである
・人が熟達していく上で大事なことは、誤ったスキームをつくらないことではなく、誤った知識を修正し、それとともにスキーマを修正していくことだ
■学びを極める
・熟達とは、
①経験を積むことで、最初はできなかったことが素早く、よどみなく、正確にできるなるというレベル
②それを超えて、その分野で、一流となり、さらに超一流となるレベル
とがある
・熟達者は、いちいち考えなくても必要な行動が必要な時に自然とできる
これを認知科学では「スキルの自動化」という
・「直観」が働くためには、膨大な量の過去の記憶があり、それが必要な時に適切に取り出せることが必要だ
・人は、熟達の過程で、その分野で重要な情報を非常に短い時間で効果的に記憶するすべを身につける
しかし、熟達者のすぐれた記憶の本質は、「その場の情報をそのまま記憶する力」ではなく、
持っている知識によって状況を認識できる「認識力」にあるのである
・「認識力」は、「識別力」でもある
熟達者は、普通の人にはわからないちがいがわかる
■「生きた知識」を生む知識観
・世界は客観的に存在しても、それを視る私たちは、知識や経験ノフィルターを通じて世界を見ているのである
聴くこと、視ることは、私たちがもっとも多くの情報を得る経路である
聴いて記憶に取り込まれた情報、視て記憶に取り込まれた情報が、「解釈されたもの」であるとしたら
それで基盤に習得される知識もまた、「客観的な事実」ではありえない
・知識は常に変化をつづけている流動的なものだし、最終的な姿はだれにもわからない
最終的な姿がわからないのに、システムを構築するためには、要素を増やしつつ、それに伴ってシステムも
変化させながら成長させていうしかない
・「生きた知識のシステム」を構築し、さらに新しい知識を創造していくためには、直観と批判的思考による熟慮との両方を両輪として働かせていく必要がある
・多かれ少なかれ、達人たちは、常識的な思い込を排除するための、振り返りをしているはずだ
直観に頼った素早い判断、素早い学習は、熟慮による修正を伴って初めて、精緻な知識のシステムへと成長していくことが可能となる
■超一流の達人となる
・超一流の人は、小さいころから質の高いトレーニング方法を模索し続け、実践しているのである
・実践をしながら、集中力の緩急の付け方、時間の配分のしかたも同時に学んでいる
・創造性は特別な才能を持った人が特別な分野で示す特別な能力ではなく、状況に合わせて自分独自のスタイルで問題を解決できる能力に他ならない
・創造性は臨機応変であることの延長線上にある
・「天才」と呼ばれる一流人に共通しているのは、向上への意欲だけではない
自分の状態を的確に分析し、それに従って自分の問題点を見つけ、その克服のためによりよい練習方法を独自で考える能力と自己管理能力が非常にすぐれているのである
■探究人を育てる
・「天才」と呼ばれる人は、どこまでも追究し、新しい道を切り開く人である
・一流の達人は、向上をするための手立てを常に模索し、実践する探求人だ
・人と一緒に、人をたよらず 協調学習
複数の人が集まって考えを出し合うことで、自分では考えつかなかった視点やアイデアに気づくことができる
同時に、大事なことは、一人で考えることをおろそかにしないことだ
・探究人を育てるには自分が探究人になるしかない
目次
はじめに
誰にでもできる探究
第1章 記憶と知識
第2章 知識のシステムを創る―子どもの言語の学習から学ぶ
第3章 乗り越えなければならない壁―誤ったスキーマの克服
第4章 学びを極める―熟達するとはどういうことか
第5章 熟達による脳の変化
第6章 「生きた知識」を生む知識観
第7章 超一流の達人になる
終章 探究人を育てる
おわりに
参考文献
ISBN:9784004315964
出版社:岩波書店
判型:新書
ページ数:256ページ
定価:960円(本体)
発売日:2016年03月18日
- 感想投稿日 : 2024年3月28日
- 本棚登録日 : 2024年3月20日
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