【新装版】危機の構造 日本社会崩壊のモデル

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  • ダイヤモンド社 (2022年8月31日発売)
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難書。ソ連の崩壊を予知した小室直樹氏が論ずる、日本の危機の構造論です。

本書の主旨は、不自然に挿入された橋本氏の解説に記されている
 ①戦前戦後の日本社会は同型で、連続的である。ようは、戦前も戦後も社会構造は何ら変わっていないのである。
 ②その特徴は、機能集団が共同体になることである
 ③共同体は、内部/外部の二重道徳をもち、共同体の存続を絶対化する。ようは、ムラからは抜けられない
 ④機能集団は合理的に行動できなくなり、破滅的な結果をもたらす。理屈ではなく、共同体の掟に縛られている
 ⑤共同体となった機能集団の成員は深刻なアノミーに陥り、回復できない。※ アノミー 規則あるいは規則を課す者が正統性を失った不安定な状態

すでに顕在化されてつつある危機について、日本人としてなすすべもないことが、著書の絶望的な一文で本文は終わるのである。

気になったのは以下です。

・敗戦の廃墟の中から立ち上がり、未曽有の経済復興を遂げ、わずか30年足らずで世界のトップクラスの経済大国になった国民のエネルギーとは、経済万能主義、金権絶対主義のエネルギーであった。
・日本人の行動様式は、構造的には戦前におけるそれとは変わっていない
・虚構としての戦後デモクラシー ニクソン告発の口火を切ったのは、名もないジャーナリストであり、ニクソンを追いつめて追いつめて辞職まで追い込んだのは、ジャーナリズムと議会であった。が、日本においては、事情は根本的に異なる。
・ロッキード事件などはほんの氷山の一角にすぎず、政界の腐敗はもっと大規模に、もっと根深く進行しつつあるという印象をぬぐいきれない。

・連合赤軍のメンバーは、一流大学のエリートが多かった。驚くべき社会的類似点は次のことである。
 ①日常の生活態度に奇行奇癖があるわけでなく、おしなべて真面目な青年たちであること
 ②彼らは断じて狂気ではなく、異常心理状態にあったわけでもない
 ③彼らの行動からの帰結は完全アノミーであること ※ アノミー 規則あるいは規則を課す者が正統性を失った不安定な状態

・連合赤軍の行動原理とは
 ①自分たちこそ自覚せるエリートであり、この点において自覚せざる大多数の国民とは根本的にことなる。そして日本の運命は自分たちの努力にかかっている
 ②この努力は特定の行動の遂行という形で成される。特定の行動と直接関係ないことは一切無視する。
 ③だから、特定の行動の遂行こそが肝要かのであり、成果は問題にされなくてよい。

・山本元帥が、真珠湾攻撃を思いたったのは、速戦即決で勝負を決めるためである。アメリカと長期的全面戦争をして勝てる見込みはない。勝利のチャンスはただ一つ、速戦即決にかかっている。
・日本社会の組織的特色は、組織とくに、機能集団が運命共同体的性格を帯びることである。
・共同体の機能的要請は絶対であり、全成員の無条件の献身が要求されるようになる
・戦争がダメなら、経済があるとばかり、ミリタリーアニマルが、エコノミック・アニマルに衣替えしても、それは同型の行動様式の異なった状況下における表現の相違にすぎない。そこにはなんら内面からの原理的行動変革の組織的努力は見られない。
・石油危機によって人々は戦中戦後時代の悪夢を思い出した。この繁栄も豊かな物資もみんな幻影であって、資源を持たない日本はもう一度あの物資欠乏時代を迎えるのではないか。とみんなおそれた。この「日本経済の虚妄性」を知らせてくれたという意味でまさに天祐である。
・日本人の思考の盲点とは何か。再び日本が国際社会の檜舞台に登場することによって日本人固有の欠点が次第に露呈されてきたからである。
・社会現象に対する科学的分析能力の欠如こそ、日本人の思考的盲点であり、これによってかって日本は破局を迎え、そして現在もまた迎えようとしている
・日本人の社会科学オンチ:戦後日本人の思考様式の基礎をなしている神話の論理構造は次のようなものである
 ①戦前は、軍国主義であった
 ②軍国主義は正しくない
 ③ゆえに、我々は破局を迎えた
そして、
 ①現在は軍国主義ではない
 ②ゆえに、現在は正しい
 ③したがって、現在軍国主義のような破局を迎えることはない 
しかし、いまや、この神話の効力が失われつつある。このような看板の塗り替えを行っても、日本人の行動様式、思考様式の基本型は変わっておらず、構造的に同型であるからである。
・社会科学の貧困をもたらした文化的背景として、日本人の思考における非科学性がある。ここに、非科学性とは社会現象を科学的に思考する論理的能力の欠如をいう。
・思考様式は、たかだか、技術的レベルにとどまり、全体的コンテクスト(文脈)における波及を考慮しつつ、社会現象を制御の対象として分析する能力を欠如している

・バルカン問題や、独ソ関係が、めぐりめぐって日本の進路にいかなる意味をもってくるか、ということについて教科書的知識するかどうしても理解することができなかったのである。
・ニクソンショックや、石油危機を全く予知も分析もし得なかった日本の政治家や外交官は、なんと戦前の首相や、外交官と似ていることであろう

・現代においては、情報を制するものは社会を制するといえよう。日本人は情報処理が下手であり、戦前においてそうであったが、戦後においても、少しも、改善されていないように思われる
・日本の戦争指導者の情報操作能力はきわめて低く、そのために日本は多大の損害を被った。この点については、戦後少しも改善されていないようである。
・情報処理能力としての重要なものには、情報操作能力の他に、事件が示す兆候からのその本質的なものを学び取り、それにもとづいて行動様式を再編させてゆく能力があげられなければならない
・本来日本人は、静的な外交は得意でも、ダイナミックスな外交は著しく苦手とする。日本人がダイナミック外交を不得手とする理由は、その前提となる冷静な分析能力を欠くからである。

・戦前のミリタリー・アニマルが国を誤らせた理由は、軍事力といえども、政治、外交、経済、文化、学術などとの総合的な協働の上に初めて有効であることを理解せず、軍事力の偏重というまさにそのことが敗戦を結果したことにあるのではないか

・日本における労働者は、共同体の論理によって動くのであって、労働の論理によって動くのではない。日本においては、生産者と生産手段の分離もまた行われず、資本は完全に資本家の私有物であるという社会的条件は成立せず、そして資本家が完全に自由に労働力を購入することも不可能である
・日本社会の構造的特色は、組織とくに機能集団が運命共同体的性格を帯びることにある
・この社会的性格による結果は、二重倫理の形成である。機能集団としての共同体の成員にとって、共同体こそすべてである。
・年功序列制や、集団間移動の困難さなどは、共同体の特長であって、日本社会の特長ではない
・一般的にいってアメリカなどの近代社会においては、普通、機能集団と共同体とは分化する傾向がみられる。ところが戦後の日本においては、これと正反対の現象がみられる。つまり、企業、官庁、学校などという機能集団がそのまま、共同体を形成するようになってきたのである。
・共同体形成からくる社会学的帰着は
 ①二重規範の形成
 ②共同体が自然現象のごとく所与なものとみてくること
とくに共同体の機能的必要は絶対視され、その達成のためには全成員の無条件の献身が要求されるようになる。
⇒ 無責任体制が生む破局への邁進
⇒ 責任の真空地帯
巨大な真空地帯が発生する だれかがなさなければならないことであるが、だれの責任であるか明確でない領域である ⇒ 自己において、この責任の一端をも引き受けることを拒否するとともにどこか間違った人々に囲まれている疎外感にさいなまれるようになる

・泥棒感覚の二重構造 狭義の泥棒については、一般人はわりかし寛大であるが、エリートと目される人びとに対しては、神経過ぎるくらい厳格である。日本社会は、万引裁判官も、万引検事も、万引役人においても同様であった。
・我が国では、銀行もメーカーも何もかも、同様に精密なハイアラーキーを形成し、この順位のどこに位置するかに応じて、そのメンバーの階層所属は決定される

・人間には自由意志があるから社会科学は成立しえないのではないかとの疑問に対して、心理学の発達によってかなり体系的に応えうるようになった。
・慣習化した行動のほとんどすべては意志とは関係なくいわば条件反射的になされるであろう
・個人は社会という怪物の前にはあまりにも弱い存在であるということを理解することである
・社会的レベルの分析ともなると、自由意志どころか、われわれの行動のなんと多くの部分がほとんど、社会的に規定されてしまっているかに驚くであろう
・社会現象の特長は、それらの間の相互連関性にあり、一方的な因果関係の連鎖上にあるのではない。科学的社会的分析は、まず、相互連関分析でなければならない。

・現代我が国の政治学は、「不振」などという生易しいものではない。すでに消滅した、といえよう。
・各個別科学が、分野を限定して狭い専門に閉じこもる時代は終わった。諸科学は、高度に細分化され、学科間の壁は極めて厚い。大部分の研究者は自分が属する学科における偏向した方法を伝統、研究状況、発達段階の所産とみず、科学的方法そのものとみるようになる。その偏向のため、先進科学の交流すらすでに困難である。経済学、心理学など、異なる学問の間では、自分の学問により忠実であろうとすればするほど、相手の立場はどうしようもないほど、非学問的にみえてくるのである。
・このように学際的協力とそれにもとづく社会科学の再編は困難である。
・では、いかにすべきか、最初になすべきことは、科学的方法の真の理解である。
・これら社会諸科学のおのおのの利害得失を知悉し、長短相補わせつつ総合的社会科学に統合し、もって現在日本に迫りくる危機を分析し、これを有効に制御しようとする試みはまだなされていないのである。
・ここにおいて、現在日本の危機は、全く救いのないものとなる。

目次

増補はしがき
はしがき
第1章 戦後デモクラシーの認識
第2章 日本型行動原理の系譜
第3章 歴史と日本人考~ジャーナリズム批判
第4章 「経済」と「経済学」
第5章 危機の構造
第6章 ツケを回す思想
第7章 社会科学の解体
解説 ますます深まる危機 橋爪大三郎
第8章 私の新戦争論~合理的、論理的側面

あとがき
増補あとがき
著者の学問的遍歴について


ISBN:9784478116395
。出版社:ダイヤモンド社
。判型:4-6
。ページ数:392ページ
。定価:2000円(本体)
。発行年月日:2022年08月
。発売日:2022年10月04日第2刷

読書状況:いま読んでる 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年5月29日
本棚登録日 : 2023年2月11日

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