鎌倉幕府二代将軍・頼家の娘の生涯が、母親の視点から綴られる。
祖父・木曾義仲以前より代々股肱の臣であり、最初の夫となる諏訪六郎雅兼が、絵に描いたような好青年として光る。
母娘への忠誠と鞠子への情愛、結婚後も主従の礼儀を崩さぬ折り目正しさ、奉公人への隔意ない接し方、公平な判断など、出来過ぎの嫌いはあるが、作中数少ない清涼剤。
対比するかの如く、二度目の夫・四代将軍頼経が、我儘放埓で歪んだ少年公方として描かれる。
物語は非情な政治に翻弄される鞠子の悲劇に終始し、読後の後味は悪く感慨も薄い。
御家人同士の相克と均衡、権威(将軍)と権力(執権)が分離する特殊性と基盤の危うさ、乳母制度の絆と脆さなど、当時の日本政治の複雑さや難解さが伝わりきらず、描写が今一つ浅く感じる。
特に、実朝暗殺を巡る駆け引きや野望の絡み合いにおいて、北条一族を諸悪の根源と位置付けての主犯=北条説は旧く、鼻白む。
実朝や義時の治世に対する公平な評も一部見られるが、全体的な印象には活かされず。
義村を始めとする三浦一族の策謀や骨太さも挙げてほしかった。
悲劇を演出する為の単純な悪役は安易だし、憎まれ役の奥深さを描いてこそ、歴史物の醍醐味はあるのではと思う。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説(歴史物・時代物)
- 感想投稿日 : 2011年3月10日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2011年3月10日
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