素粒子論はなぜわかりにくいのか (知の扉)

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  • 技術評論社 (2013年12月5日発売)
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素粒子論の一般向け解説は、素粒子を粒子として説明するため、「波動と粒子の二重性?」、「力を伝える粒子とは何?」「ヒッグス場が凝縮?」という疑問が浮かんでくる。素粒子論をある程度理解するためには、「場の量子論」の考え方を理解する必要がある。その見方によれば、素粒子は「粒子」ではない。場が高いエネルギーを持った(励起した)状態であり、それが粒子のようにふるまっているだけである。

素粒子論も時代により変わっており、どの時代の研究者が書いたかで、一般向け解説も異なっている。この本では「場の量子論」の考え方を、一つのモデルを使って、一貫的に説明する。これも場の説明に対する一つのイメージでしかないが、巷にある本とは違い、「場」の考え方をしっかり伝えてくれる。空間に場の値を示す振動子が、バネでつながったイメージである。これにより場を伝わっていく波動という概念、エネルギーを得て激しく振動しているところ(「励起しているところ」)が、あたかも「物質や力」を持った箇所、「粒子」の流れとして見なせるようになる。振動のエネルギーが質量である。このイメージを使って、「標準模型」を説明する。

またファインマン図は、場の量子論に基づく計算法である摂動法の道具である。摂動法では相互作用ありと相互作用なしの部分に分けて考えることで計算する。ファインマン図が便利なために一般的な解説に使われてしまった。そのため、摂動法の計算で現れる仮想粒子(相互作用のない波動)が、実際の物理現象を表すものであるかのようにとらえられてしまった。

標準模型の拡張か、より革新的な量子重力理論か?量子重力理論の候補の一つである超弦理論の功罪についても著者の意見が述べられている。正しい理論の可能性もあるが、正しいかどうかはまだわかっていない。実験データに基づいて数多くのアイディアが集まって標準模型は作られたが、超弦理論には実験データに基づく練り上げの過程がなく、正しい理論なのかもしれないが、そう主張するだけの根拠がほとんどない。一般書が数多く出版され、正しいか不明なまま振動するひもや9次元といった曖昧なイメージが流布されている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・雑誌
感想投稿日 : 2022年9月28日
読了日 : 2014年1月31日
本棚登録日 : 2018年10月7日

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