蛙鳴

著者 :
  • 中央公論新社 (2011年5月1日発売)
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本棚登録 : 178
感想 : 28
4

読み終えた瞬間に、ずるい!と思った。
誰に対してかというと、主人公のオタマジャクシに、だ。
結局のところ、彼は人生の「勝ち組」である。
亡くなった最初の奥さんに対して生涯申し訳ないと思っている、とはいえ、
結果的には人生のステップになっているのだ。
その上、いいこと悪いこと、辛いことも嬉しいこと、自分の波乱万丈すべてを、
世間へのアピールの道具にしている。
小説の中では、彼は主役でありながら時には傍観者、時には演出家だ。
他者に演技指導はするけれど、自分自身の態度をはっきり言うことはない。
だからずるい!
中国の産児抑制の状況がリアルにつづられた作品として、たいへん
興味深く読める。それは国の方針を忠実に実行する伯母さんや
二番目の奥さんのチビライオン、さらに地下で試験管ベビーを誕生させる
事業を営む男たちなど、個性あふれる配役あっての成果である。
そんなところからも、オタマジャクシの手腕は優れていると思うのだ。
すると、だんだん、作者と主人公を重ねてみるようになっていく。決して
そうではないと思うのだが。
なんだか、作者の思うつぼ、みたいな読み方、感想になってしまったな。

なお、翻訳書が、翻訳者のフィルターを通して伝わるものであることを
実感する読書でもあった。
中国を描いた作品の訳語には、猥雑な言葉、勢いのある言い回しがよく
使われる傾向にある。確かにそういう側面を感じる人も多いかも
しれないが、今回はなぜか気になって仕方がなかった。
他国語の翻訳書でどんな言葉が使われているのか知りたいところである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: アジアの文学
感想投稿日 : 2013年5月10日
読了日 : 2013年5月9日
本棚登録日 : 2013年5月9日

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