龍を見た男 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1987年9月30日発売)
3.50
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本棚登録 : 364
感想 : 26
4

短編集。
「帰ってきた女」
藤次郎の妹おきぬは破落戸と駆け落ちした。女郎として死に掛けている事を知り藤次郎は助けに行くべきか躊躇する。子飼の職人音吉は生来言葉が喋れなかったが、おきぬだけとはやりとりが可能だった。音吉はおきぬを助けに行ってくれと話せぬながらも頼み込む。良い結末。

「おつぎ」
三之助は借金を綺麗にするためにと大店の出戻り娘との縁談を進められる。迷う最中、料理茶屋で働く幼馴染おつぎと再会する。相思相愛となるが、おつぎは三之助の事情を知って姿を消す。三之助には幼い頃に人殺しの嫌疑を掛けられたおつぎの祖父を救う証言をしなかった後悔があった。二度と後悔はしないとおつぎを探す決意をしたところで終わる。どうなるのかな…。

「龍を見た男」
漁師の源四郎は村の仲間とは協力せず一匹狼で漁に出る。己の腕のみを頼みとし、勝手気ままに生きていたが、甥を死なせ、自らも海に呑まれそうになった時、龍神に助けを乞う。源四郎に従うばかりに見える妻が時折見せる強さが頼もしかった。

「逃走」
銀助は小間物売りの姿で金のある家を物色する盗人。ある日、夫婦喧嘩の末に男が出て行くところに居合わせる。残された女と赤ん坊を気にかけているとどうやら女は新しい男を連れ込み赤子を始末しかねない様子。自らが捨て子であった銀助は堪らず赤子を盗み出す。結末もいい。銀助がどこかでヘマをしませんように、と思わず祈ってしまう。

「弾む声」
隣家からいつも聞こえてくる元気な女の子の声は隠居した身である助左衛門夫婦にとって毎日の彩りだった。しかしその声が聞こえなくなり心配した夫婦は事情を知って…。優しい話。女の子が幸せになれるといい。

「女下駄」
下駄職人の清兵衛は女房お仲が若い男と歩いていたと知らされる。疑心暗鬼で仕事も手につかず、お仲のために作った下駄を捨てそうになる。拗れることなく誤解が解けてよかった。

「遠い別れ」
糸問屋の主である新太郎は借財を返しきれず、店を畳むことになった。かつて捨てた女おぬいに救いの手を差し伸べられ、散々に迷った末に…。

「失踪」
呉服屋を営む徳蔵夫婦。商いは順調だったが徳蔵の父・芳平が呆け始め徘徊するようになってしまう。女房のおとしは疲労困憊、奉公人を雇おうかと話しているうちに芳平がかどわかされる。犯人から身代金を要求されるが、徳蔵はそれを値切り続ける。テーマは重いがどこかコミカル。

「切腹」
助太夫と甚左衛門は道場仲間だった。かつては親密な交流があったが、根っこのところでどうも相性が悪い。互いに納得ずくで決裂していたが、甚左衛門が切腹したと聞くなり助太夫は事の真相を探り、甚左衛門の汚名を晴らす。相性が悪いながらも上役に推挙したり、命をかけたり。最後まで互いを認め合っていた。厄介な友情というか、絆。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2012年6月12日
読了日 : 2012年6月11日
本棚登録日 : 2012年6月8日

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