間違いだらけのTPP 日本は食い物にされる (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2011年5月13日発売)
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(2013.04.30読了)(2013.04.18借入)
副題「-日本は食い物にされる-」
TPPに関する本の三冊目です。
前二冊では、農業以外の問題点がよく分かりませんでしたが、「金融」「保険」「医療」などについても、わかりやすく述べてありました。前二冊でも、触れていたとは思うのですが、個人的によく分かりませんでした。
アメリカの先進医療を高額で受けられるようにしようとか。医療保険制度をアメリカのように民間に移せとか。「簡保」が集めている資金や「JA共済」の資金とか、がアメリカの狙っているものであるとか。企業買収をしやすくして、企業の転売によって儲けられるようにしてほしいとか。アメリカのえげつない商売を、日本でもできるように、というのがアメリカの本意である、ということのようです。
TPP参加予定は、13か国とかいうことですが、貿易総額から言うと、日本とアメリカで大部分を占めてしまうので、実質的に日本とアメリカの協定とも言えそうです。
アメリカは、他の国も巻き込むことによって、アメリカに有利な内容にしようということでしょう。
この本が書かれた時は、民主党政権の菅さんが首相でしたが、政権が代わって自民党の安倍さんになったけど、TPP参加の政策は、引き継がれています。
アメリカからの強力な圧力が日本政府にかけられているということなのでしょう。アメリカとの強力な絆を求めている安倍政権としては、喜んで応じるしかないのでしょう。
もはや、TPPへの参加は決まったので、今後は、アメリカの望むように、郵政の民営化の仕切り直し、健康保険制度の見直し、簡保や共済の優遇制度の廃止、食料の厳しい検査の緩和、等、生活の安全・安心に関わる部分の、見直し、等、社会の基本的仕組みに関わる部分の全面的な、質の低下、社会の荒廃へと突き進むことになるのでしょう。
粘り腰で、世界の生活の質の上昇へと持っていけるかどうかは、日本の官僚たちの腕次第ということで、いけるといいのですが。

【目次】
まえがき
序章 あまりに不自然なTPPの登場
第一章 矛盾だらけの「TPP経済学」
第二章 日本の農業が直面する本当の脅威
第三章 FTAからTPPへの謎の反転
第四章 アメリカの狙いは「金融」と「投資」だ
第五章 TPPは安全保障になるという幻想
終章 太平洋もアジアも逃げない
あとがき
主な参考文献

●農業補助金(24頁)
すくなくとも先進国であればすべての国で、農業に対する補助金は膨大な金額に上っている。たとえば、EUであればフランスの小麦に対する補助金や、ドイツの甜菜に対する補助金が知られており、アメリカにおけるトウモロコシや綿花への補助金は途上国からの激しい批判を浴びてきた。
●参加予定国のGDP比率(53頁)
ざっと計算して、十カ国のGDP合計のうち、アメリカのGDPが67%を占め、日本が24%、比較的大きなオーストラリアが4%、他の七か国あわせても5%にすぎない。
アメリカと日本だけで、TPP参加国全体の91%、つまり九割を占めてしまうということだ。
●アメリカの金融緩和(57頁)
アメリカは自国のためにドルの価値を下げて輸出を促進し、さらには開発途上国にバブルを生みだし、石油や小麦の価格を高騰させている
●関税率は低い(78頁)
日本の農産物の平均関税率は11.7%で、世界でも極めて低い
●アメリカ版TPP(142頁)
日本政府も日本のマスコミも妙に鈍感なことに、金融、保険、サービス、市場アクセス、内国民待遇といった言葉が、いつまでもバラバラに存在していると思い込んでいる。
金融のなかには保険が含まれ、サービスには金融が含まれる。市場アクセス条項によってアメリカの企業は、日本のどのようなサービス市場においても参入が可能になり、内国民待遇条項はTPPのなかで、アメリカの企業が「日本の企業より不利にならない待遇」を受けることを保証する。
●簡保の資産が狙い(146頁)
「米国にとって(郵政)民営化はゴールではなく、簡保を弱体化させ、最終的には分割、解体、経営破綻に追い込み、M&Aや営業譲渡などさまざまな手段を弄して、簡保が擁している百二十兆円にのぼる資産を米国系民間保険会社に吸収させることが最終的な狙いなのである」
●農協共済(161頁)
総資産が約四十五兆円の農協共済は、郵政の簡保に劣らずアメリカ保険業界にとって垂涎の的だろう。アメリカ政府がTPPによって日本に強い圧力をかけるようになれば、今度は農協そのものの分割解体をせざるを得なくなるのではないだろうか。
●医療サービスの輸出(168頁)
アメリカの医療を模範として論じている経済学者たちは、医療サービスを「奢侈品」、つまり贅沢品として考えて、その最適な生産と分配を考える。しかし、医療サービスは生命と健康という、代替の利かないものを扱っているために、贅沢品のようにある段階であきらめ、あるいは別の何かで間に合わせるということができない。

☆関連図書(既読)
「TPP亡国論」中野剛志著、集英社新書、2011.03.22
「よくわかるTPP 48のまちがい」鈴木宣弘・木下順子著、農文協ブックレット、2011.12.31
(2013年5月1日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
TPP推進派は「関税が撤廃されれば、消費が増えて景気が回復する」と言うが、まったくのウソ。むしろデフレは深刻化する。推進派は「安全保障にも有用だ」とも言うが、これもデタラメ。今までの地域経済協定で、軍事的な協力が得られたことはない。過去の例や詳細なデータを基に、推進派の矛盾を徹底的に突く。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 経営・産業
感想投稿日 : 2013年5月1日
読了日 : 2013年4月30日
本棚登録日 : 2013年4月28日

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