葬られた王朝: 古代出雲の謎を解く

著者 :
  • 新潮社 (2010年4月25日発売)
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「葬られた王朝」梅原猛著、新潮社、2010.04.25
319p ¥2,310 C0095 (2020.06.07読了)(2020.05.13借入)(2010.08.10/12刷)
副題「古代出雲の謎を解く」
2020年1月に上京した際に、「出雲と大和」という展覧会を見てきました。
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出雲と大和
会期:2020年1月15日(水)~2020年3月8日(日)
会場:東京国立博物館 平成館
令和2年(2020)は、我が国最古の正史『日本書紀』が編纂された養老4年(720)から1300年という記念すべき年です。
「幽」と「顕」を象徴する地、島根県と奈良県が当館と共同で展覧会を開催し、出雲と大和の名品を一堂に集めて、古代日本の成立やその特質に迫ります。
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展覧会の感想:
会場に入ってすぐの所に、出雲大社の境内から発掘された巨大な柱の根元の部分が展示されていて、度肝を抜かれました。かつての出雲大社の模型も展示されていて、その巨大さがしのばれます。他にも、新聞紙上をにぎわした、銅剣、銅鐸、銅鏡、等も展示されています。古代出雲は、どれだけの富と権力があったんだろうと興味を惹かれます。
大和の円筒埴輪というのも初めて見ました。大きさに圧倒されます。
馬の埴輪、鹿の埴輪が出雲のものと大和の物が並べて展示してあります。よく似ているので、同じ文化圏なのではないかと思ってしまいます。
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帰って来てから図書館で、下記の二冊の本を借りて読んでみたのですが、古代出雲についての満足のいく情報は得られませんでした。
「出雲と大和」村井康彦著、岩波新書、2013.01.22
「古代出雲を歩く」平野芳英著、岩波新書、2016.07.20
そこで、さらにこの本を借りてきました。
1984年の荒神谷遺跡の発掘で銅剣358本、銅鐸6個、銅矛16本が出土し、1996年の加茂岩倉遺跡の発掘で39個の銅鐸が出土しました。さらに、出雲を中心に四隅突出型墳丘墓が数多く発見されています。この古墳の築造は、前方後円墳から遡ること約二百年ということです。(21頁)
これらのことは、出雲を中心とした強力な権力が存在した証拠です。
著者は、『神々の流竄』という本で、「出雲神話」はフィクションであると書いたそうなのですが、荒神谷遺跡、加茂岩倉遺跡、等の発掘結果を目の当たりにして、考え直してみたというのがこの本です。
古事記で述べられている出雲神話は、古代出雲の歴史的な事実に基いて伝えられたものであろう、ということになります。出雲方面の神社などに伝えられている話を現地に足を運んで集めながら述べられています。
ただ、古代のものは、書き残された文書などが新たに発見されるというようなことは、ほとんどないので、古代出雲の歴史がどのようなものであったのかは、具体的には見えてきませんね。

【目次】
はじめに 出雲へ
第一章 出雲王朝はスサノオから始まった
第二章 オオクニヌシ―王朝を繁栄させた大王
第三章 考古学が語る出雲王朝
第四章 記紀の謎
おわりに 出雲大社の建造
主要参考文献

●出雲王朝(29頁)
『古事記』を素直に読む限り、アマテラスを開祖とするヤマト王朝の前に、スサノオを開祖とする出雲王朝が、この日本の国に君臨していたと考えねばならない。
●銅鐸(173頁)
銅鐸は中国から来たものではなく、朝鮮の馬の首につける鈴が日本に来て、祭器になったものである(佐原真氏の説)
●銅鐸は出雲発祥?(192頁)
銅鐸は出雲で生まれ、出雲王国の領土拡大とともに中国、四国、近畿で多く作られるようになったのではないかと思う。
●大量の青銅器を所有していたのは誰か?(194頁)
これほど多くの宝器を所有したのは間違いなく出雲王朝の大王であり、おそらくオオクニヌシといわれる「人」であったに違いない。
●養老律令(232頁)
藤原不比等は大宝元年(701)に制定された大宝律令をさらに改正し、不比等が死んだ養老四年(720)に養老律令が制定されたといわれる。大宝律令と養老律令の違いはしばしば問題にされるが、養老律令において天皇の権力は一層弱められ、太政官の権力、すなわち藤原氏の権力が増大することになったことは確かである。
●『竹取物語』に登場する五人の「色好みの」貴公子(279頁)
この五人の登場人物はそれぞれ、持統朝から文武朝にかけての実在の重臣をモデルにしている。「石つくりの御子」が丹比島、「右大臣あべのみむらじ」が阿部御主人、「大納言大伴のみゆき」が大伴御行、「中納言いそのかみのまろたり」が石上麻呂、そして「くらもちの皇子」が藤原不比等である。なぜ「くらもちの皇子」かというと、不比等の母は車持氏の出自で、彼は車持の皇子と呼ばれていた。皇子と呼ばれているのは、彼が天智天皇の子であるという噂によるものであろう。

☆関連図書(既読)
「出雲と大和」村井康彦著、岩波新書、2013.01.22
「古代出雲を歩く」平野芳英著、岩波新書、2016.07.20
「古事記」三浦佑之著、NHK出版、2013.09.01
「古事記」角川書店編・武田友宏執筆、角川ソフィア文庫、2002.08.25
「楽しい古事記」阿刀田高著、角川文庫、2003.06.25
「日本書紀(上)」宇治谷孟訳、講談社学術文庫、1988.06.10
「日本書紀(下)」宇治谷孟訳、講談社学術文庫、1988.08.10
☆梅原猛さんの本(既読)
「仏像」望月信成・佐和隆研・梅原猛著、NHKブックス、1965.04.20
「続・仏像」望月信成・佐和隆研・梅原猛著、NHKブックス、1965.10.20
「湖の伝説」梅原猛著、新潮社、1977.01.05
「空海の思想について」梅原猛著、講談社学術文庫、1980.01.10
「隠された十字架」梅原猛著、新潮文庫、1981.04.25
「水底の歌(上)」梅原猛著、新潮文庫、1983.02.25
「水底の歌(下)」梅原猛著、新潮文庫、1983.02.25
「ヤマトタケル」梅原猛著、講談社、1986.01.20
「ギルガメシュ」梅原猛著、新潮社、1988.10.15
「梅原猛の『歎異抄』入門」梅原猛著、PHP新書、2004.06.02
(2020年6月10日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
ヤマタノオロチや因幡のシロウサギなどで知られる出雲神話、それは天皇家につながるアマテラスの系譜とは別個の、スサノオを祖としたもう一つの王家の物語である。もしこの王朝が歴史的に実在するものであったなら…『隠された十字架』『水底の歌』以来の、日本古代史を塗り替える衝撃的な論考。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 梅原猛:思想
感想投稿日 : 2020年6月10日
読了日 : 2020年6月7日
本棚登録日 : 2020年6月3日

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