マジック修行中の身の知人の家にあり、手に取る。師匠から読んでおけ、と言われたらしい。マジックに興味がない人でも、そういう歴史やからくりがあったのか、と「優れた出しもの」についての知見の高まる一冊。
時系列に奇術の反映と変化を解説したマジックの歴史書である。オーソドックスな「カップと玉」に始まり、「出現/消失」「人体切断」「脱出」などの各マジックのネタと有名な演出をたんたんと解説していく。
おもしろいのが、ただのネタばらし本ではなく、そのようなネタを奇術師がどのように演出効果・心理的トリックで奇術たらしめたのか、という料理方法の紆余曲折に触れている点だ。
ネタ自体は大昔からあるものでも、その時の社会情勢や演出効果、舞台設定、小道具によってまったく違った現象に見える。奇術師、大道芸人、霊媒師、超能力者、布教者、マジシャンなど、演じ手の役割も時代によって変わったりする。
単なるいかさまではない、こんな現象があったらきっとびっくりするぞ、わくわくするぞ、という観客側の心理を読んだ芸である。何を怖れたり、何に期待したりしているのか。作りだすのはその時代の観客たちでもある。
これを読むと、だいたいのマジックのからくりが見当がつくようになる気がする。それでも技術や演出は日進月歩、思ってたのと違うことだってある。何よりも観客の「あーこれ知ってる」にきっと奇術師たちは敏感だ。
本書の現代的なマジックの中に、観客にみせているという設定で後ろ向きに演じるマジック、というのが紹介されていて思い出した。たまに大道でやっている芸でも、そういうネタばらしと見せかけて実はマジック、という、テンプレートなマジックを逆手に取るものがあったりする。そんなのも、スマートで面白いなと思う。
どれだけ技術が発達しても、マジックのネタばらしが横行しても、奇術師たちはさらにその先を考えようとする。技術もさることながら、観客を楽しませたい、退屈から救いたい、という「人情」が、今日まで脈々と受け継がれるマジックの元なのだろうと思う。
- 感想投稿日 : 2020年1月30日
- 読了日 : 2020年1月30日
- 本棚登録日 : 2019年9月21日
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