盤上の向日葵(下) (中公文庫 ゆ 6-2)

著者 :
  • 中央公論新社 (2020年9月24日発売)
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感想 : 236
5

本作品での将棋の場面はほとんどがアマの真剣師による賭け将棋で、昭和のヤバイ闇社会を垣間見ることができる。
本作品で登場するプロ棋士は、6冠を保持している24歳の壬生芳樹(みぶよしき)であるが、このモデルが羽生善治(はぶよしはる)であることは明らかだ。
下巻で登場するアマの真剣師・東明重慶(とうみょうしげよし)は物語の中で「鬼殺しのジュウケイ」の異名を持っている。
こちらも小池重明(こいけじゅうめい、本名:こいけしげあき)という「新宿の殺し屋」との異名を持つ実在の真剣師がモデルだということは容易に想像できる。

壬生芳樹と東明重慶が絡むシーンはなかったが、羽生善治と小池重明は接点があったことを解説で羽生さん本人が語っている(小池の名前は出していないが明白)。
羽生善治さんは9歳の時に小学生ながらアマ名人戦に出ていて、東京都下大会の予選を勝ち上がり本選にも進んでいる。
本選で敗れた羽生少年は決勝戦で記録係を務めているのだが、そこで優勝したのが小池重明だ。その後小池は全国大会も2連覇している。

タイトルの"向日葵"も下巻でいろんな意味を持って登場する。
ゴッホの"向日葵"も関係している。
"盤上の向日葵"は、今ならAIが示す最善手を象徴したものだ。
"盤上"に"向日葵"が現れるか否か…、それが勝敗に大きく影響する。

この物語は、なぜこのようなことになったのかを、登場人物の生い立ちと関係性を詳しく示すことで明らかにしていく。
天才棋士・上条桂介が主人公という設定だが、本当の主役は東明重慶で上条桂介は東明の分身のようにも感じた。
東明と上条の最終局の勝敗を決する手がまさかの●●と、同じであることが両者の関係性を物語っている。
将棋を題材とした物語で、二人の生き様の総括にもなっている●●を最後の一手に選んだ柚月裕子さんの発想は凄い。

佐野・石破コンビの刑事のキャラも良かったし、期待を裏切られることなく面白かった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説 - 日本
感想投稿日 : 2023年4月30日
読了日 : 2023年4月30日
本棚登録日 : 2021年3月29日

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