第三次世界大戦はもう始まっている (文春新書 1367)

  • 文藝春秋 (2022年6月17日発売)
3.87
  • (62)
  • (93)
  • (61)
  • (9)
  • (4)
本棚登録 : 869
感想 : 89
2

ロシアでは、ウクライナ戦争をどのように伝えているのか?
本書はロシア側がウクライナ戦争を正当化する論法を知るのにいいだろう。
---

で、レビュー終わりにしようかと思ったが、もう少し書いておく。
(まとまりのない内容になってしまったが、書き直すのも時間の無駄なのでこのまま登録)

エマニュエル・トッドという名前はよく聞く。
内容は覚えていないが「世界の未来」という本を4年前に読んでいた。(読むのをやめた記憶もある)
レビューも書かず★2つにしているので価値なしと判断したのだろう。

本書も★2つで、「なんだこいつは、いかがわしい奴だ」と感じながらも一応最後まで読んでみた。

今回のウクライナ戦争は、欧米陣営のウクライナ支援側の日本では、ロシアが一方的に悪いようにしか報道されていない。

トッド氏は、欧米の民主主義は壊れかけているという主張を売りにしているようなので、ロシア擁護の視点で戦争を語る絶好のチャンスだ。

今のウクライナ戦争の原因は、アメリカとイギリスがウクライナ軍の武装強化を図り、ウクライナにいるロシア人を虐待し始めたからである。
ウクライナは2014年にロシアによって略奪された(クリミア半島などの)土地を奪還しようとしているので、ロシアとしては仕方なく戦う羽目になっている。
ロシアの実効支配化にあるクリミア半島の現状は良しとする理由も、それを取り戻そうというウクライナの行為を悪とする理由も述べていない。

反ロシアなのは欧米と日韓など一部の国だけであり、多くの国はどちらの側に付くこともなく静観している。
だから、ロシア(の国民やプーチン)が悪いと決めつけるのは誤りらしい。

本書は中国のようにうまく立ち回りたい国から見た欧米・ロシアの状況理解を深めるのにもいいかもしれない。

とはいえ、あくまでもエマニュエル・トッド氏が持論の中から都合のいい部分を取り出して、実際に起きた出来事と親和性が良くなるように説明しているだけだ。

トッドは、「日本も核兵器の保有が必須だ」と主張している。
ウクライナがロシアに攻撃されたのは、核兵器を持っていないからだ。
仮に中国から日本が核攻撃を受けても、アメリカ軍が核兵器を中国に打ち込むことはない。
それはアメリカと中国の戦争になることを意味するからだ。
このような論法で、日本の「核保有」を煽る。

ヨーロッパ経済はロシアのエネルギー資源に依存している。
だからEUはロシアに対しては経済断交の決断はできず、本格的に介入できないと考えていたと言う。
しかし、ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」は停止することになった。
トッド氏の主張に「アメリカはロシアとドイツが手を結ぶことを恐れている」というのがある。
アメリカはEUにロシア経済制裁の働きかけを行った。
アメリカは、この戦争を利用して「ノルド・ストリーム2」を停止させるのに成功したのだそうだ。

トッドの思考の前提は「人間は基本的にずる賢い」なので性善説に基づいた観点はなく、なぜかロシア擁護の立場で性善説ぶった欧米を非難しまくる論調に終始している。

物理学には「そうなる理由」はわからなくても「正解」がある。
人間が行う政治や経済には「正解」がないが「そうなる理由」はいくらでも述べられる。
トッド氏は、一方的に語る分には「そうかもね」と思わせるのがうまい。
(対談で反論されると、論点をずらしにかかる)

以下、「そうかもね」の例

アメリカがロシアの勝利を阻止できなかったら、アメリカにとって「死活問題」になる。
中国は経済的にロシアを支える。
ロシアの経済制裁に失敗すれば、世界の経済的支配力をアメリカが失うことになる。

空母は簡単に撃沈され、時代遅れの兵器となった。
中国が台湾に武力侵攻した場合、アメリカは台湾を守れないということだ。
これは日本が攻撃された時も同じ。

軍事的な意味での真の"NATO"は、アメリカ、イギリス、ポーランド、ウクライナ、スウェーデンで成り立っている。
ここに、(武力も闘争心もないから)ドイツとフランスは入っていない。

中国はロシアを利用して、アメリカの武器備蓄を枯渇させ、アメリカの弱体化を目論んでいる。
もしもロシアが倒されれば次に狙われるのは中国なので、中国がロシアを支援しないわけはない。
ロシアは軍事兵器支援と経済支援を中国に頼ることができる。

苦しいのはロシアではなくヨーロッパだ。
この戦争は、西洋社会がうまくいっていないから起きた。
西欧の各国政府は自分たちの無力さと卑劣さを隠すため「ロシアを悪とみなす」ことで団結しているように装っているだけだ。

そもそも、ウクライナは国家としての体をなしていない。
だから皆ウクライナを捨てて他国に逃げ出している。
西側の1/3をポーランドに、南東の1/3をロシアに併合されてもおかしくない。

---

どこか本質を突いていそうな意見もあるが、その考えに至った根拠となるデータは示さないので妄想癖が強そうだと思ってしまう。
アメリカのトランプ大統領やイギリスのEU離脱を見通していたというが、どちらも確率は50%程あって、そう予想した人は多かった。
「30年以内に東京で震度7の地震が起こってもおかしくない。」みたいなことを言っておけば、起きた時に予想通りだと騒げますから。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治・社会
感想投稿日 : 2022年7月6日
読了日 : 2022年7月6日
本棚登録日 : 2022年6月16日

みんなの感想をみる

コメント 3件

まことさんのコメント
2022/07/06

Kazuさん。こんばんは♪

Kazuさんは、この本の著者のことをいかがわしい奴だと、書かれていらっしゃいますが、どのあたりで、一番強くそう感じられましたか?
私は政治や外交のことは、全く無知で、エマニュエル・トッドという名前も初めて目にしましたが。
「日本も核を保有すべき」というあたりでしょうか?

Kazuさんのコメント
2022/07/07

まことさん。
気にかかるレビューを書いてしまったようで、すみません。
ウクライナ戦争、早く終わって欲しいと願う中「お前らが悪い!」と言われちゃうとね。

トッド氏の考え方の基本姿勢は西洋文化の常識の全否定で、さらに反感を買うように非難を浴びせる文章にしています。
中国やロシアは否定しても共感されてしまうのであまり触れないようにしているようです。
全般がこんな論調で書かれているので、どこの部分がではなく、どこもかしこも不愉快だらけでした。

トッド氏は、「批判される」=「本質を突いている」と信じており、あえて批判されることを目論んで本を書いているように感じます。

だから、トッド氏にとっては私のように「なんだこいつは、いかがわしい奴だ」という感想は賛辞に等しいのでしょう。
「いい子ちゃんぶったバカが、また一人食いついてきた」と喜んでいるにちがいないです。

建設的な意見はなく、いかに嫌な気持ちにさせるかを楽しむ確信犯のような人なのだろうと思います。
政治や外交に限らず、何に対してもそういう思考回路なのでしょう。
日本では結構評価されているようですし、単に私が嫌いなタイプなだけですので、あまり気になさらないように♪

まことさんのコメント
2022/07/07

Kazuさん。
丁寧なお返事ありがとうございました。
Kazuさんのおっしゃりたいことはよくわかりました。
トッド氏が、確信犯だから、批判すると、逆に喜ばれてしまうのですね。
私は日本が核を持つなんて、考えられなかったので、このような質問をしてしまいました。
丁寧にお答えいただきありがとうございました。

ツイートする