霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記

  • 新潮社 (2006年8月17日発売)
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感想 : 14
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法廷傍聴グループ"霞っ子クラブ"は、2005年に高橋ユキさんが発起人となり女性4人で結成された。
法律家のたまごとかでなく、既存メディアによる報道への不信感や物足りなさから裁判所に通うようになった彼女らの傍聴記は、新聞や週刊誌の記事とは全く違う視点で書かれていて、おそらく自分が裁判を傍聴しても感じるであろう素朴な思いが、少し幼い印象を受けるほどに平易な言葉で綴られている。
が、4人が全く同じ視点を持っているわけではないから傍聴記にも個性が出るわけで、確かに、Amazonのレビューで酷評されているような、不快なものもある。

たとえば、70頁から始まる『余計な一言をいうとこうなる』と題された、50代と思しき男による女子高生への強制わいせつ事件(度を超えた痴漢)の傍聴記では、なぜか最初から最後までエゲツナイ男性目線で、被害者である女子高生やわいせつ行為そのものに興味津々だ。
衝立で遮蔽されていた被害者が証言を終えて法廷から出ると、その顔を一目見たいがために法廷を飛び出て追いかけて顔を確認し、「むちゃくちゃかわいかったです」と綴り、最後はあろうことか、「こりゃ痴漢するわ」で締めている。

また、126頁から始まる強盗致傷事件の傍聴記にはこうある。

『すると、今日に限ってコンビニの店員がテレビカメラをチェック(しかも店員は28にもなってコンビニでバイトしてる女…しかも店の為に万引きをチェック…どうなのそんな人生)しており…(後略)』

傍聴したメンバーがどれだけ高尚な仕事をしているのか知らないが、「どうなのそんな人生」と言われている女性店員は、万引き犯を捕まえた後、その仲間に飛び蹴りをされて肘を打撲した被害者である。
職務を果たし不幸にも被害に遭った人の職業がコンビニのアルバイト店員だというだけで、ここまで見下せる人の神経を疑う。
ちなみに、このふたつの傍聴記を書いたのは同一メンバーで、加害者にはほとんど言及せずに被害者やその家族の職業や服のセンスを貶す傍聴記も書いてるので、なんというか、まあ、そういう性格の人なんでしょう。

しかし、だ。
世の中で起こる事件は、前述したような被害者に全く非がないものばかりではなく、100%被害者に同情できない場合もある。
出会い系サイトに絡んだ犯罪がそのいい例だが、起こるべくして起こったと思わざるを得ない事件は多々あり、それらの報道を見ながら心の中でアレコレツッコミを入れているあたしにとっては共感する傍聴記も多い。
また、良い意味でも悪い意味でも人間味溢れて描かれた裁判官や検察官や弁護士は、法の素人が書いた傍聴記でなければ読むことができないだろう。
そして何より彼女達が興味深いのは、傍聴を重ねていくうちに、被害者の心情はもちろん、加害者の心情や酌量すべき、または酌量するに値しない情状を、真正面から捉えて考えて、自分なりの感想を述べていくようになるところだ。
判例を鑑みず、その裁判だけを凝視し続けて見えた事件のほんとうはきっと、いつの日か裁判員になった我々が見るものに近いに違いない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2011年8月29日
読了日 : 2011年8月25日
本棚登録日 : 2011年8月25日

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