中2の夏休みに読んだはずなのに、読み応えのある本だったなぁという程度の記憶しかない。
たぶん当時の私は、この本の価値を何一つ分からなかったのだろう。
今この年齢で再読して、ここまで深く感動できる歴史小説だったことを知り、改めて驚いている。
1966年第6回日本児童文学者協会賞受賞作品。
ほかにも第4回NHK児童文学奨励賞、第4回国際アンデルセン賞国内賞を受賞している。
さもありなん、である。涙なくして、とうてい読み終えることは出来ない名作。
主人公は江戸時代後期に実在した「肥後の石工」岩永三五郎。
薩摩藩に招かれ、甲突川五石橋などを築いた史実を基にして著された児童文学。
築かれた橋には秘密があり、中央の石ひとつをはずすと簡単に取り壊せる仕組みがそれ。
敵が攻めてきたときに、橋を落として城を守る仕掛けだったと言う。
この秘密を守るため、工事が終わると肥後の石工たちは全員『永送り』になったらしい。
『永送り』というのは、ひと目につかないように刺客をつかわして国境で斬り捨てることだ。
主人公の三五郎は、石工たちの中でただひとり、それを逃れて家路に着いた。
話はそこからがスタートだ。
何故、三五郎は『永送り』を逃れられたのか。
三五郎を斬ることが出来なかった刺客の「仁」は、その後どうなったのか。
替え玉として斬り捨てられた川原乞食の、ふたりの子どもたちのその後は。
三五郎は、石工仲間の家族から恨みを買うことになるが、どう対処したか。
登場人物も多く、複雑な絡みも見せ、でもしっかりと底辺に流れるものは変わらない。
江戸時代の土木工事の描写も読み応えじゅうぶん。
死ぬことよりも生きることを選んだ三五郎の、ひたむきな生き方にはただもう賞賛である。
何が彼を生かし続けたか。
失う一方の人生で、何故そこまで精一杯生きられたのか。
ひとの心に橋を架けたかったから。そうに違いない。
読み終えてから、三五郎の弟子たちが築いたという『二重橋』や『万世橋』『日本橋』などを検索して、しばしその画像に見惚れていた。
誰もが知る歴史上の偉人などではなく、【民】の真摯な生き方を描いた小説として、まさに白眉。
すべての方におすすめ。
- 感想投稿日 : 2014年4月9日
- 読了日 : 2014年4月5日
- 本棚登録日 : 2014年3月29日
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