宮沢賢治の作品が横書きになり、旧かなづかいが無くなって読みやすい。
そこに、藤城清治さんの影絵が見事に共鳴している。
子供の頃、この影絵の世界にどれほど憧れたことだろう。
大人になってもそれは変わることはなく、何度も何度も
繰り返しすべての場面を見つめては、その美しさに
ため息が漏れる。
主人公ジョバンニの抱える孤独と悲しみ、理想へと突き進む無垢な心と憧れ。
それらが銀河鉄道から見える世界の反映となっている。
でも、なぜその鉄道で銀河を旅するのかは、明らかにされていない。
終盤になり、親友カンパネルラの死を知ることで、読み手ははじめてそれとなく察知する。
ああ、あれは「死」への旅だったのか・・
しかもカンパネルラは、日ごろ虐めっ子の側だったザネリのために、命を投げ出したのだ。
ここに、とてつもない意味がある。
夢の旅の中であれほどふたりで「こんな風に生きよう」と
誓い合ったのに、目覚めたらその友は亡くなっている。
そのラストの切なさに、子どもの頃読んだ時は号泣したはずだが、再読すると静かな幸福感に包まれる。
こんな「生涯の宝物のような」旅は、誰にでも出来るものではないからだ。
友情と、生と死、永遠とは何か、幸福とは?
ひたすら高い精神性に、ただもう圧倒される。
奥付を見ると、初版は1982年となっている。
今から34年も前にこの作品は世に出ていたことになる。
何十年経ても変わらない輝きを保ち続けるものが、良書ということなのだろう。
ひとつだけ注意点を。これは原文に藤城清治さんが手を加えている。
原作のエッセンスはもちろん損なわれていないが、
出来れば原文の方もお読みあれ。
- 感想投稿日 : 2016年7月20日
- 読了日 : 2016年7月20日
- 本棚登録日 : 2016年7月20日
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