はるかなるアフガニスタン (文学の扉)

  • 講談社 (2012年2月29日発売)
4.04
  • (13)
  • (29)
  • (9)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 169
感想 : 33
4

「はるかなる」と「アフガニスタン」という言葉に惹かれ、図書館で借りた本。
表紙の絵もなかな素敵なのだ。
大人目線で考えると「タリバン」だの「イスラム原理主義」だのというキーワードばかりが浮かんで、政情不安定な国というイメージがつきまとう。残念ながら。

ところが、お話はアフガニスタンの少年とアメリカ・イリノイ州の少女の文通から始まる。
それぞれ一筋縄ではいかない背景があり、アメリカの少女・アビーは勉強嫌いで落第しそう。
窮余策として出された課題が、海外の子どもと文通してそれを掲示して発表するというもの。
さて、アビーからの手紙を受け取ったアフガニスタンの村では上を下への大騒ぎ。
伝統と礼儀を重んじる村の顔役たちの会議から始まるのだ。どうやら教師よりも権限があるらしい。
男子と女子が文通をするというだけでも問題だということで、教師が白羽の矢を立てたサディード少年の妹が文通相手ということになる。
しかし、文通の指導役だったはずのサディードが思い切った行動に出て・・

この間の、手紙を読みながらじょじょに互いへの理解を深めていく過程が丁寧に描かれる。
時折現れるアラビア文字も新鮮で、興味をそそられる。
国の事情(つまり大人の意見ね)とがからんで文通は中途断絶となるが、公平な気持ちで相手を良く知ろうとする子どもたちの気持ちがストレートに伝わり、とても爽やかな読後になっている。
こんなにも周りの大人たちに心配されるアフガニスタンの子どもたちが、羨ましくもある。
果たして日本の子どもたちとどちらが幸せなのだろう?

そういえば、先月アフガニスタンの大統領選だったものね。
タリバン構成員は3万人くらいいるらしいけど、民主化への強い希望が勝ったのだと思いたい。
小学校高学年の課題図書だったらしいけど、「こんな国もあるんだ。信じられない」などという陳腐な同情へと教師が導かないように祈るばかり。
とは言え、課題図書として選定されなければ出会うこともなかったかもしれないので、そこは複雑(笑)。

終わりの3行が、秀逸だ。この3行だけで、この一冊の価値が格段にあがっている。
バスから見る見慣れた風景を『生まれて初めて本気で見てみました。サディードの目を通して見たのです。。。』とある。
ひとを理解することの難しさと大切さを思うとき、私はいつも『アラバマ物語』という映画の中のある場面を思い出す。
弁護士である主人公が自分の子にこう言うのだ。【人を理解するには相手の靴を履いて歩き回れ】
作者はアメリカ人で、たぶんこの部分を最も言いたかったのだろう。
報道に惑わされずに、その国の人たちの靴を履いて歩き回るような感覚をもってみることが出来たら、私たちの世界はもっと広がるのだろう。
大人の方にもおすすめ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 児童書
感想投稿日 : 2014年5月2日
読了日 : 2014年4月26日
本棚登録日 : 2014年5月2日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする