紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている

著者 :
  • 早川書房 (2014年6月20日発売)
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「石巻に大きな製紙工場があってね。そこが壊滅状態らしいの。うちの雑誌もページを減らさないといけないかも。佐々さんは東北で紙が作られてるって知ってました?」
ある雑誌で記事を書いていた著者が、その雑誌の編集長にかけられた震災当時の言葉。
これがプロローグだ。
なんという迂闊。私も知らなかった。
本と言えばその書かれた中身ばかりに眼が行っていた。
本そのものを作っている紙のことなど、考えたことさえなかった。
それから二年後のある日、著者は石巻に取材に行く。
東日本大震災で甚大な被害を受けた「日本製紙石巻工場」の、復興にかけた壮絶なノンフィクションが、ここから生まれる。

覚悟は出来ていたが、やはり読むのが辛かった。
特に1章2章の震災当日の描写は正直苦しく、何も知らずにいたという自責の念との闘いだった。
メディアでは触れることのない衝撃的な部分も当然登場する。

「紙をつなぐ」ということはこの国の文化を繋ぐということ。そしてもうひとつの意味は「通紙」という最大の工程を成功させること。
全長111メートルにも及ぶマシンを、紙がスムースに繋がるのは通常でも難しいとされるらしい。
8章ではそれがものの見事に繋がる。
だが、ここまでの道は並大抵の苦労ではない。
被災した工場構内を手作業で清掃する間に、41体もの遺体も発見されている。
社員もまた被災したひとたちだ。
彼らを鼓舞したリーダーの姿勢と、石巻工場を見捨てなかった日本製紙の存在も大きい。
また、これも知らなかったのだが、石巻工場の野球部の存在も。

読む途中何度も、親指と人差し指でこの本の紙の感触を確かめてみたりもした。
紙の色・紙の香りを知ろうと、目を凝らし鼻を近づけてもみた。
そう言えば私は知っていたのかもしれない。
図鑑や写真集はとても重くて持ちにくく不便だったこと。
それがいつの間にか、写真やイラストの色が美しいまま、かつてよりもはるかに軽くなっていること。そして、めくり易くなっていること。
頭では認知していなくても、感触として知っていたのだ。

そうか、作り手たちの名前が刻まれるわけではないけれど、こうした進化が彼らの誇りなのだ。
では私たちのすることは何だろう。
読み終える頃には明確な答えが出る。私もまた、その受け取ったバトンを誰かに手渡したい。
紙の本という文化が、これからも廃れませんように。
巻末に被災当時の写真付き。紙を繋ぐというのは希望を繋いでいくということにもなるのね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2018年10月7日
読了日 : 2018年10月6日
本棚登録日 : 2018年10月7日

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