未来のだるまちゃんへ

著者 :
  • 文藝春秋 (2014年6月25日発売)
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感想 : 39
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多くの著名な方が亡くなられた年だった。
かこさとしさんもそのおひとりで、年齢から推し量れば不思議ではないものの、やはり寂しさがこみ上げる。もっともっと、その著作を読みたかったなぁ。

本を開くといきなり、かこさんのお写真があらわれる。
著作もハイライトページもたくさん。もう、たまらない気持ちになって来る。
前半部分はかこさんご自身の半生記。
まだ日本が貧しく不穏な時代で、それを「豊かな」などと言っては申し訳ない気がする。
でもこれだけの自然の中で全身を使って遊べるなど、今の時代では想像も出来ない事だ。だから、心の部分では「豊か」だったと言わせていただきたい。

感動的なのは、3章からの「セツルメント」での出来事。
今でいう市民ボランティアのような川崎市のセツルメント内で、子どもたちの声や姿から学んでいくかこさんの姿勢が、自分の経験ともオーバーラップして涙が出そうになる。
様々な有名作品の生まれる現場に居合わせたかのような感動もあり、「ああ、あの作品はこうして出来たのか」と感慨も新たになったり。
松居直さんがかこさんの才能を見出したことなど、初めて知ることだった。

かこさんが言われるように、ひとって善の部分も悪の部分も持っているのだし、それは子どもにしても同じこと。誰でもダメなところがあって失敗もする。でもその失敗でくさらず諦めず、考えて自分を変えていくことが大事と、力強く語られる。
また、大人は思いあがるな、子どもの前で謙虚であれとも。大人は大人のことを一生懸命やればよいのだと。
それを子どもはちゃんと見ているからと。
何度も何度も、うんうんと頷きながら、時に眼を潤ませながら読み終えた。
次世代に託そうとする熱いメッセージが伝わってきて、ふがいない自分に喝を入れられたように思う。ああ、いつの間にか自分も思いあがった大人になっていたんだな。子どもたちに「教えてやるぞ。聞かせてやるぞ」というエラそうなところがあったかもしれない。
かこさんにならって、大人としてもっと一生懸命生きよう。
子どもから学ぶ姿勢で、彼らの声に耳を傾けよう。
これからじっくりと足跡を辿らせていただくことにしようと決意する今日。
かこさん、あらためてご冥福をお祈りします。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ 評論
感想投稿日 : 2018年12月6日
読了日 : 2018年12月6日
本棚登録日 : 2018年12月6日

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