ジャン・クリストフ 2 (岩波文庫 赤 555-2)

  • 岩波書店 (1986年7月16日発売)
3.78
  • (11)
  • (18)
  • (18)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 238
感想 : 9
4

心に残ったところ。

「いかなる民族にも、いかなる芸術にも、皆それぞれ虚構がある。世界は、些少の真実と多くの虚偽とで身を養っている。人間の精神は虚弱であって、純粋無垢な真実とは調和しがたい。その宗教、道徳、政治、詩人、芸術家、などは皆、真実を虚偽の衣に包んで提出しなければならない。それらの虚偽は各民族の精神に調和している。各民族によって異なっている。これがために、各民衆相互の理解がきわめて困難になり、相互の軽蔑がきわめて容易となる。真実は各民衆を通じて同一である。しかし各民衆はおのれの虚偽をもっていて、それをおのれの理想と名づけている。その各人が生より死に至るまで、それを呼吸する。それが彼にとっては生活の一条件となる。ただ数人の天才のみが、おのれの思想の自由な天地において、男々しい孤立の危機を幾度も経過した後に、それから解脱することを得る。」

「生涯のある年代においては、あえて不正であらなければいけない。注入されたあらゆる賛美とあらゆる尊敬とを塗沫し、すべてをーーー虚偽をも真実をも、否定し、真実だと自分で認めないすべてのものを、あえて否定しなければいけない。年若い者は、その教育によって、周囲に見聞きする事柄によって、人生の主要な真実に混淆している虚偽と痴愚とのきわめて多くの量を、おのれのうちに吸い込むがゆえに、健全なる人たらんと欲する青年の第一の務めはすべてを吐き出すことにある。」

「年老いた心は、若い心にごく近く自分を感じ、ほとんど同年輩くらいに感じ得る。両者を隔てる年月がいかに短いかを知っている。しかし青年はそれを少しも気づかない。青年にとっては、老人は異なった時代の人である。そのうえ、青年は目前の配慮にあまり心を奪われていて、自分の努力の悲しい終局からは本能的に眼をそらすのである。」

「孤独、疾病、困窮、苦しみの理由は多くあったにもかかわらず、クリストフは我慢強く自己の運命を耐え忍んだ。かほど忍耐強いことはかつてなかった。彼自身でも驚いた。病気は往々ためになるものである。病気は身体をこわしながら、魂を開放する、魂を浄める。無活動を強いられた夜や昼を過ごすうちに、あまりに生々しい光を恐れ健康の太陽にはやかれるような、種々の思想が起こってくる。かつて病気になったことのない者は、決して自己の全部を知ってはいない。」

特に青年に関する記述は非常に共感できるものがあります。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 世界文学
感想投稿日 : 2013年7月6日
読了日 : 2013年4月10日
本棚登録日 : 2013年7月3日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする