葬送の仕事師たち (新潮文庫)

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  • 新潮社 (2018年1月27日発売)
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感想 : 37
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抜群に美味しいコシヒカリみたいな一冊。日本人全員に欠かせないことなのに、こんなに知らなかったことが多いなんて…すごく良かった。知らなかったことを知れた。人々のリアルをあぶり出す、ルポルタージュが果たすべき役割の極致。

まずもって葬儀ってのは誰の為の物なんだろうか。故人のためにするもの?残された人のためにするもの?エンバーミングを例に取れば、残された人を救う技術ではあるけど、あれだけ苦しみ抜いてメスを入れて頑張った遺体をさらに傷つけてまですることなのか?

だからこそ最終章みたいに自分の最期をしっかり話し合っておくことこそ肝要だなと感じた。死に際はどう生きたかを表すってのは割とその通りだと思っていて、世の中に何がしか貢献してきた自負があるなら、自分の最期ぐらいきっちり自分で締めてやるわっていざとなったらなるのが自然ではないか

「葬儀屋は傘。深い悲しみに陥った家族がやがて一区切りついて日常に戻れば、傘なんかいらなくなる」

「死にたいという人にいつも僕は、その前にちょっと横を見てくださいと言いたいんです。あなたがこんなになっても、お顔を見たいというご家族がいる。あなたをなんとかしてさしあげたいと必死になる僕みたいなのもいる」

「生きている間、自分は存在しない。死んで、生きている人の心に入ってから、生きていたと世に証明される」

葬送に関わる人たちの言葉の重さったらない。本当に重たい。日頃関わりもないのに死ぬ時だけしゃしゃり出てくる仏様よりこちらに手を合わせたい気分になる。

人の死の数だけ葬送がある。家の繋がりが薄れている今だからこそ、多死社会への移行と合わせて劇的に変わっていくジャンルなのだろう。自分が死ぬ時はどんな葬儀にしてもらおうか…子供に伝えるときまでにたくさんの選択肢からあれこれ迷う羽目になることを願う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年3月4日
読了日 : 2020年3月4日
本棚登録日 : 2020年3月4日

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